テレビの医療ドラマでは、主人公の医師が患者の病気を突き止めていくシーンがよく描かれます。原因となる病気を的中させて治療がうまくいく……という流れが多いようですが、実際の診療はどうなのでしょうか? 『心にしみる皮膚の話』の著者で、京都大学医学部特定准教授の大塚篤司医師が、自身の経験をもとに語ります。
* * *
「左足に変な模様ができました」
そう訴える年配の男性患者さんが受診しました。
冬場になってから、左足の前面(すねの部分)に赤茶色い網目状の模様が出現してきたとのこと。
念のため、両足を見せてもらったのですが、その網目状の模様は確かに左足にしかありません。
なるほど。
ある仮説がぼくの頭の中に思い浮かびました。そして、それを確かめるため、患者さんに一つの質問をしました。
「右足は寒くないんですか? 普段」
患者さんは驚いた顔をして答えました。
「はい。右足は寒くありません。何年か前に交通事故に遭ってから、足の感覚に左右差があるんです。でも、どうしてわかったんですか? そのことはお話ししてませんよね」
「なるほど。これですべて解決しました」
テレビドラマであれば、ここで効果音が流れる場面です。
「あなたの病気は……」
ぼくはもったいぶって診察室を見渡します。
患者さんは固唾(かたず)を飲んで聞き返します。
「病気は?」
ぼくは診察室の片隅を指差し、
「電気ストーブによるやけどです」
決まった。
「ぷっ」
患者さんは噴き出しました。
「わが家に電気ストーブはありません」
あららら。
一気に自分の顔が真っ赤になるのがわかりました。
「でも、こたつがあります。ずっと左足が冷たくて、左の足しかこたつにいれてないんです」
なんと優しい患者さんでしょう。ぼくの迷推理をフォローしてくれました。気を取り直して患者さんに説明を続けます。
「ひだこという病気です」
「ひだこ?」
「はい、やけどの一種です」
床暖房があまり普及していない寒い地域では、冬は屋内も寒くなり、電気ストーブで足元を温める人が「ひだこ」をつくって病院に受診されます。しかし、私は都市部の病院で勤務しているため、ひだこそのものを診る機会がそれほど多くありません。