もし植物がみな、空の色と同じだったらどうでしょうか。遠くから見て「おいしそうな実がなっているな」と、見つけてもらいにくいですよね。そのため、空の色と違う色の植物が増えるのです。しかし、空の色と離れた色の植物が増えれば、かえって青い植物が目立つこともあるので、ツユクサなどの青い植物も少ないけれど存在しているのです。

 では、空はなぜ青いのでしょうか。それは地球を取り巻く空気が、青い光をよく反射するからです。つまり、空気が少し青いから、空も青く見えるのです。私たちの周囲には空気があるので、実は周辺は常に青い光に満ちていることになります。でも、どこにでもある光を感じ取っても、ものを見分けるのにあまり役に立たないので、青く感じられないのです。

 もう少し詳しく説明しましょう。私たちの眼の奥の網膜には、赤、緑、青の3原色に対応した「色を知覚する細胞」が3種類あります。そのうち青に対応する細胞の個数が、赤や緑に比べて少ないのです。そのため、赤や緑の物体に比べ、青い物体の形を見分ける能力はかなり低いことが知られています。空気の色である青を認識するよりも、そうでない色を認識するほうが生活上有利だったので、「青を知覚する細胞」を減らして、その分、「赤や緑を知覚する細胞」を網膜にたくさん配置するように、私たちは進化したのです。

 ところで、私たちが目にする食べ物も青いものは少ないですね。みんなの大好物のカレーライスも、もし青かったら食べたくなくなるでしょう。青色は食欲を削ぐ色でもあるので、食品産業ではパッケージになるべく青を選びません。しかし、例外もあります。暑い夏には、青色のソーダ水が人気です。これはおいしそうというよりも、涼しそうなのでつい買ってしまうのでしょう。

 私たちの遠い祖先がジャングルで生活していたサルだったころ、食べられる木の実は、赤や黄色、白や茶色であって、青いものはほとんどなかったでしょう。それに、ジャングルで食べ物を探すときに、青い色に反応していたら、葉っぱの間から見える空を食べ物と勘違いしてしまいます。だから、人間も「青い色は食べ物ではない」と認識するようになったのです。

【今回の結論】青い植物は目立たないから少ない。青いものは人間にとって見分けにくく、食欲もわかないので、現代でも青い食べ物はめったにない

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石川幹人

石川幹人

石川幹人(いしかわ・まさと)/明治大学情報コミュニケーション学部教授、博士(工学)。東京工業大学理学部応用物理学科卒。パナソニックで映像情報システムの設計開発を手掛け、新世代コンピュータ技術開発機構で人工知能研究に従事。専門は認知情報論及び科学基礎論。2013年に国際生命情報科学会賞、15年に科学技術社会論学会実践賞などを受賞。「嵐のワクワク学校」などのイベント講師、『サイエンスZERO』(NHK)、『たけしのTVタックル』(テレビ朝日)ほか数多くのテレビやラジオ番組に出演。著書多数

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