ヤクルト監督時代の野村克也氏(c)朝日新聞社
ヤクルト監督時代の野村克也氏(c)朝日新聞社

 プロ野球はストーブリーグに突入した。各チームの来季へ向けた補強戦略なども気になるところだが、シーズンオフとなり、プロ野球がない日々に寂しい思いをしている方も少なくないだろう。そこで、今回は「プロ野球B級ニュース事件簿」シリーズ(日刊スポーツ出版)の著者であるライターの久保田龍雄氏が懐かしの“B級ニュース”をお届けする。今回は「珍ゲームセット」編だ。

 サヨナラ勝ちが決まった直後、よりによって、サヨナラのホームを踏んだ走者が息も絶え絶えになって、本塁上で大の字にのびてしまう珍事が起きたのは、1990年9月1日の阪神vs広島(広島)だ。

 7対7の同点で迎えた9回裏、広島は2死一塁で代打・水上善雄が三塁線を抜いた。2死のフルカウントとあって、中田良弘の投球と同時にスタートを切っていた一塁走者・達川光男は、地元ファンの大歓声を受けて激走、また激走でサヨナラのホームイン。ここまでは思いきりカッコ良かった。

 ところが、ナインがベンチを飛び出し、大激戦を制した歓喜に浸るなか、達川はホームインと同時にバッタリと仰向けに倒れ込み、苦悶の表情を浮かべて、動くことができない。35歳のベテラン捕手にとって一塁からの長駆ホームインは相当こたえたとみえる。

 異変に気付いた山本浩二監督やトレーナーが駆け寄り、心配そうに様子を見守る。無理な激走がたたって、左太ももの裏側付近を痛めてしまったようだ。

 達川はつい4日前(8月28日)の中日戦(ナゴヤ)でも、試合中にコンタクトレンズを本塁付近に落とし、大捜索で試合中断というトンデモハプニングがあったばかり。でも、今度ばかりはレンズのように交換が効かないだけに、けがの具合が心配された。

 それでも2試合休んだだけで、同5日のヤクルト戦(神宮)でスタメン復帰。ベテラン捕手にとっても、地元ファンの温かい声援は、何よりの薬だったようで!

 本塁打が出れば一挙同点という9回無死満塁のチャンスが、あっという間にゲームセットになってしまったのが、96年7月26日の中日vsヤクルト(神宮)。

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久保田龍雄

久保田龍雄

久保田龍雄/1960年生まれ。東京都出身。中央大学文学部卒業後、地方紙の記者を経て独立。プロアマ問わず野球を中心に執筆活動を展開している。きめの細かいデータと史実に基づいた考察には定評がある。

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