3強とも4強とも言われる男子マラソン。日本記録保持者の大迫傑(Nike)、前日本記録保持者の設楽悠太(Honda)、そして昨年のアジア大会王者の井上大仁(MHPS)が優勝争いの軸か。加えて昨年の福岡国際を日本選手として14年ぶりに制した服部勇馬(トヨタ自動車)。選手や指導者らに聞くと、井上の評判が高い。大迫や設楽より安定感は上だ、という声がある。
井上はMGCや来年の東京五輪をひとつの目標に、同じような季節にマラソンを走ってきた。つまり、練習のサイクルが一定になっていることが、大きな強みになっている。MGCや東京五輪と同じ夏場のレース、ペースメーカーのいないレースも体験済みだ。
2017年の東京で日本選手トップとなる8位(2時間8分22秒)に入って、同年8月のロンドン世界選手権の代表の座をつかんだ。そこでは、世界大会の雰囲気にのまれて26位(2時間16分54秒)と、失敗レースに終わった。雪辱を期した翌年の東京では、設楽の日本記録(当時)の陰に隠れてしまったものの、2時間6分54秒の自己ベストで5位に入った。
■32年ぶりのアジア王者。1位への欲が出る
この後のレースにMHPSの黒木純監督と井上は、8月にインドネシア・ジャカルタで開かれたアジア大会を選択した。MGCや五輪をにらんで、あえて酷暑のレースに挑んだ。
スタート時の気温が26度だったアジア大会は、トラック勝負となり、フィニッシュ直前のつばぜり合いでエルハサン・エルアバシ(バーレーン)をかわした。日本男子選手として8大会、32年ぶりの金メダルを獲得した。2時間18分22秒の記録や、途中でもっとエルアバシを引き離せなかったか、といったレース展開に不満は残るが、何より優勝という勲章は大きい。
井上も言う。
「アジア大会の優勝というのは今につながっている。これまでは1位になれなくても妙に納得していた。1番の味を知らなかったから。1位を経験すると2位との扱いが大きく違うと実感しました。そういう面で欲が出てきましたね」