家族旅行はいつも憂鬱だった。楽しそうなきょうだいたちを横目に、ただひたすら横になって吐き気が治まるのを待つ。車酔い、船酔い、電車酔い、飛行機酔い……あらゆる乗り物酔いで子どものころの旅行や学校の遠足の思い出といえば、真っ先に辛さと悔しさが蘇る。そんな記者が、めまい治療の第一人者で、横浜市立みなと赤十字病院めまい平衡神経科部長の新井基洋医師に聞いた。お盆休みの旅行や帰省で同じように憂鬱を抱えている子たちを救う方法はあるのか?
【イラスト】めまいチェックにも! 医師がすすめる3つの平衡トレーニング
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――乗り物酔いは、やはり子どもに多いのでしょうか。
そうですね。年齢別に見ると、ピークは二度あります。一つは3歳ごろ~小学校高学年まで。平衡機能を司る小脳がまだ発達段階にあって、自律神経もまだ未成熟だからです。そしてもう一つは50歳以上。加齢によって小脳(バランスの親分)や内耳(三半規管と耳石器)の機能が落ちてくるのが理由です。
乗り物酔いは医学的には動揺病と呼ばれ、症状は頭が重くなる、生あくび生唾が出る、脱力感、顔面蒼白、思考力低下、吐き気や嘔吐、冷や汗、あぶら汗など、自律神経系のものが多いのです。
――考えただけで気持ち悪くなってきました。原因は何なのでしょうか。
きっかけは睡眠不足や空腹、読書、匂いなどがあり、「酔うかもしれない」と考えることも一つのスイッチになってしまいます。
揺れを感知する三半規管と加速度を感知する耳石、目からの情報、足の裏から得る情報がずれると、脳が混乱し、不快な感情を起こします。脳はストレスを感じ、自律神経系のバランスが崩れて、症状が出るのです。しかし、酔いやすい人と酔いにくい人など個人差があり、遺伝的な傾向もあるようです。
私の小学校時代の友人にも社会科見学やバス旅行ではいつも青ざめた顔でエチケット袋を手に持ち、目的地に着いてからも気分が悪くて活動には参加できず、バスの中で寝ている子がいました。本人は前日から気が滅入って睡眠不足にもなっていただろうし、憂鬱になり、悪い条件が揃っていくわけです。
さらに、患者さんの中には「バスで吐いてしまって、あだ名がついた」という方もいました。社会科見学もできないし、本人にとっては踏んだり蹴ったりですよね。
――その気持ちよくわかります……。対策は。
吐き気が始まってしまったら手を付けられませんが、それまでに衣服を緩める、座席を倒す、なるべく遠くを見る、風にあたることが予防になります。いろんなデメリットがあっても参加したい(させたい)場合は、市販薬を使うのも手でしょう。
バスガイドさんが歌を歌ったり、クイズをしたり、手や足を使ったレクリエーションをしてくれますが、あれは乗り物酔いをしやすい子にも良い影響があると考えられます。飛行機で配られる飲み物や飴玉も、耳管機能を促します。
自家用車よりもバスの方が辛いという人が圧倒的に多いのですが、それは横揺れするからです。車の重心に近いところは横揺れしないので、バスなら前から2、3列目までの席がオススメです。可能なら運転手さんの動きが見える席で、遠くの景色を見ながら、道を曲がる時は運転手さんと同じように体を傾けてみると良いでしょう。