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「おや?」と思って立ち止まる。そしてはじまる旅の迷路――。バックパッカーの神様とも呼ばれる、旅行作家・下川裕治氏が、世界を歩き、食べ、見て、乗って悩む謎解き連載「旅をせんとや生まれけむ」。第3回は東南アジアのトイレで見かける「ハンドシャワーの正しい使い方」について。
【日本人が使い方で悩む、タイのトイレにあるハンドシャワーはこちら】
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僕は長く誤解していたようだった。東南アジアのトイレには必ずといっていいほどついているハンドシャワーである。これは用を足した後、肛門付近に噴射させて洗うものだと思っていた。つまり、日本でウォシュレットなどと呼ばれる温水洗浄便座の東南アジア版という認識だった。
このハンドシャワーの水圧は、国によって差がある。カンボジアのそれはやたら強く、肛門の粘膜がめくれるような感覚になる。ベトナムはやや弱く、タイはその中間ぐらいだろうか。
そんな話をしていると、ひとりのタイ人が怪訝そうな顔つきでこういった。
「肛門に水をあててるんですか。それは違います。ハンドシャワーの水は手に当てるんですよ」
「手?」
「手というか指というか。水を流しながら指でお尻を洗うんです」
彼の説明によると、東南アジアはもともと、尻を水と指で洗う文化圏だった。インドと同じなのだ。用を足した後は、桶に水を汲んで、それを流しながら尻を洗った。