そこで発明されたのがハンドシャワーだった。これがあれば、桶を手にもつより簡単に尻を洗うことができた。だからハンドシャワーの水は手に当てる。指に水を流しながら洗うことをより簡単にしたものがハンドシャワーだったのだ。

 日本人は温水洗浄便座に慣れているせいで、ハンドシャワーを肛門に噴射させてしまう。しかし、根本的な考え方が違っていたのだ。

 なんだかすっきりした。ハンドシャワーの使い方が、昔から腑に落ちなかったからだ。

 さっそく試してみた。

「ん?」

 難しいのだ。トイレに座ったまま、左右の手を入れなくてはならない。そのスペースがない。和式トイレならなんの問題もない。しかし洋式になると……。

 手に当てると教えてくれたタイ人に訊いてみた。

「そうなんです。洋式になって、ちょっと難しくなった。お尻を少しずらさないと両手が入らないから」

 やはりタイ人も洋式トイレで悩んでいたのだ。しかしなんとか指で洗う方法を実践していた。

 彼らにいわせると、温水洗浄便座の方が苦手だという。理由は尻がきれいになったのかどうか、確認できないからだ。なんとなく「やり残した感」があるのだという。

 アジアでせめぎあうハンドシャワーと温水洗浄便座。便座の洋式化のなかで、温水洗浄便座に傾きつつある気もするのだが。

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下川裕治

下川裕治

下川裕治(しもかわ・ゆうじ)/1954年生まれ。アジアや沖縄を中心に著書多数。ネット配信の連載は「クリックディープ旅」(隔週)、「たそがれ色のオデッセイ」(毎週)、「東南アジア全鉄道走破の旅」(隔週)、「タビノート」(毎月)など

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