JR大津駅へは交差点から右手へ徒歩5分ほど。駅前に建つ高層マンションとホテルがランドマークになっている。逢坂山隧道の完成によって1880年に開業した官設鉄道の初代大津駅は、琵琶湖水運との接続を重視し、びわ湖浜大津駅付近に設置された。しかし、当時の蒸気機関車では逢坂山と湖岸を直結する、京津線併用軌道部分にあたる区間の急勾配を克服できない。そのため官設鉄道はいったん東側の馬場(現・膳所=ぜぜ)へ迂回し、スイッチバックして大津へ向かうルートを採らざるを得なかった。

 京津線の電車は、太平洋戦争時に空襲を受けなかった大津中心市街地の古い街並みを、南北に突っ切っていく。旧東海道はその途中で右手に分かれる。車窓からちらりと見える、クルマがすれ違うのがやっとの旧東海道の道幅は、ほぼ当時のままだ。すぐ奥の沿道で1891年、来日中のロシア皇太子ニコライ2世に、警備にあたっていた滋賀県警察部守山警察署巡査の津田三蔵がサーベルで斬りつけ、重傷を負わせた「大津事件」が起きた。現場には「此付近露国皇太子遭難之地」と刻まれた小さな石碑が立っている。

 大津市内では例年10月初旬、天孫(てんそん)神社の例祭である国指定重要無形民俗文化財の「大津祭」が催され、いずれも江戸時代初期に作られた計13基の曳山(山車)が、街なかを練り歩く。曳山にはゴブラン織など豪華絢爛(ごうかけんらん)な意匠が施され、精緻(せいち)なからくり人形も載せられている。

 800系電車が曳山と国道161号を並走するシーンは、大津祭曳山巡行のハイライト。鉄道ファンのみならず、格好の“インスタ映え”カットを狙って、多くの人たちがカメラやスマートフォンを向ける光景は、すっかり大津の秋の風物詩となった。国道161号と交差する丸屋町アーケード街には「大津祭曳山展示館」があり、原寸大の曳山模型などが展示されている。琵琶湖の湖面が迫り、左手から京阪石山坂本線の線路が近づくと、終点のびわ湖浜大津は目の前。石山坂本線と合流するポイントが、半径43メートルの京津線2番目の急カーブになっている。かつては浜大津交差点の西側に旧浜大津駅があり、琵琶湖西岸の近江今津との間を1969年まで結んでいた江若(こうじゃく)鉄道と接続していた。

 いまのびわ湖浜大津駅は1面2線の狭いホームを京津線と石山坂本線が共用し、ひっきりなしに800系4両編成と、石山坂本線の600形・700形の2両編成が行き来している。

 御陵~びわ湖浜大津間は平均所要時間わずか16分だが、240円の運賃で地下鉄~山岳鉄道~路面電車の三つが味わえる、魅力的な路線だ。(文・武田元秀)

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