だが年俸調停権を得れば話は別。選手によっては10倍以上まで一気に年俸が跳ね上がる。例えば、レッドソックスのムーキー・ベッツ外野手はメジャー3年目の2016年にはオールスターに選出されるほどの主力選手となったが、まだ調停権のなかったそのオフは56万6000ドルから95万ドルまでしか年俸が上がらなかった。

 だが2017年は成績が全体的に前年から下降したにもかかわらず、年俸調停権が発生していたため、オフの交渉では一気に11倍近い年俸1050万ドルをゲットした。さらに2018年にはリーグMVPを獲得してチームのワールドシリーズ制覇にも大きく貢献。2度目の調停権を持って臨んだ昨オフに、年俸は2000万ドルに到達している。

 ここまで年俸が跳ね上がるのは極端な例ではあるが、それでも調停権取得前に実績を残した選手たちの年俸が権利取得後に一気に高騰するのは珍しいことではない。つまり裏を返せば、選手が年俸調停権を得る前にシーズン単価が低めの長期契約を結んで調停機会を潰しておけば、球団にとっては結果的に優秀な選手を割安な総年俸額で長くチームにとどめておくことが可能になる。さらに先を見据えれば、FA権取得の最短タイミングよりも長い契約にしておけば、いっそう長く安価でトップ選手をキープできるというわけだ。

 こうした若手有望株と早いタイミングでの長期契約は、その性格上、総年俸額が低いチームで多くみられる。昨季にメジャー3年目で21勝を挙げて最多勝とサイ・ヤング賞を獲得したレイズのブレイク・スネル投手も、オフにいったんは年俸調停で契約更新したものの、開幕前に5年5000万ドルの長期契約を結んだ。サイ・ヤング賞クラスの投手を1年平均1000万ドルで5年も確保できるのは、資金力に限界のあるレイズにとっては大きな意味がある。

 一方でスネルとしては年俸調停権やFA権の取得まで待った方がより高額な契約を結べたかもしれないが、それはあくまでも可能性の話。この先に伸び悩んだり故障に泣かされたとしても5000万ドルの収入は保障されているというのは、ある意味では悪い話ではない。

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