日々の生活のなかでちょっと気になる出来事やニュースを、医療や健康の面から解説するコラム「ちょっとだけ医見手帖」。今回は、妊娠中に接種しておきたいワクチンについて、自身も1児の母である森田麻里子医師が「医見」します。
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インフルエンザが流行しています。みなさんワクチン接種は済んでいますか? まだの方は、今からでも遅いということはありません。ワクチンは、お子さんはもちろん、妊娠中のママもぜひ接種していただきたいものなのです。今回は、生まれてくる赤ちゃんを病気から守るためのワクチン接種について、お話ししたいと思います。
妊娠中は薬を飲むのにも気を使うので、まして予防接種となると、ちょっと身構えてしまうかもしれません。確かに生ワクチンは、生きている病原体の毒性をぎりぎりまで弱くしたもので、妊娠中に接種することはできません。しかし、不活化ワクチンは死んだ病原体やその一部分でできているので、一般的に妊娠中でも接種することができます。
■妊娠中はインフルエンザが重症化しやすい
2004年から2009年にかけてアメリカで行われた研究では、インフルエンザワクチンを妊婦さんに接種することの安全性が確かめられました。約5万8千人のワクチンを接種した妊婦さんと、約9万2千人の接種しなかった妊婦さんを比較しましたが、低出生体重児や早産の割合は、どちらのグループも有意な差がなかったのです。
その上で、特に妊婦さんにインフルエンザワクチンの接種をすすめる理由の1つは、妊娠中はインフルエンザが重症化しやすいからです。
例えば、アメリカで約13万人を対象に行われた研究調査では、インフルエンザ流行期に呼吸器の症状で入院した人数は、妊娠後期だと妊娠していない時期に比べて5.1倍になっていたという結果が出ています。
■生まれてくる赤ちゃんに免疫
もう一つの理由は、生まれてくる赤ちゃんにインフルエンザの免疫をつけてあげられるからです。
2011年から2012年にかけて南アフリカで行われた研究では、妊娠20週~36週のママ2116人を2グループに分け、片方のグループのみ不活化インフルエンザワクチンを接種しました。赤ちゃんが生後6カ月になるまでにインフルエンザにかかった人数は、ママ・赤ちゃんともに、ワクチン接種グループでは未接種のグループの約半分に抑えられたのです。