日本人5人の「綱引き隊」(有名なタレントさんが隊長になり、あとの4人は若手の落語家さんだったり、若手の芸人さんだったり、僕のような学生だったり)が世界各国を旅して現地の人と寝食を共にし、最後に友情の証として綱引きをする、そんな企画の旅番組でした。
この番組のオーディションに僕が受かった理由は「足の大きさが31センチもあり、なんか面白そうだから」。そんな理由でテレビに出ていいのかという気もしますが、とにもかくにも、僕は「綱引き隊」の一員として、世界各国を巡ることになりました。
当時20歳の僕は隊員の中でもダントツの年下でした。加えて他の隊員さんは落語家として芸人として、なんとか爪痕を残そうという思いでこの番組に参加しているのに、僕は大学生という中途半端な立場で、しかも「本当は役者をやりたいのになあ」という、いま思うと、この番組に対してとても失礼な気持ちもあったように記憶しています。当然、皆さんからたくさん可愛がられもしましたが、たくさん怒られもしました。だから正直この時は、せっかく色んな国の人と接するチャンスだったのに、「現地の人とコミュニケーションを取ろう」というより、「隊員の皆さんの足を引っ張らないようにしよう」ということばかりを考えて番組に参加していたと思います。
あれから30年。現在、映画の撮影でタイにいる僕は、あの頃の自分をやり直すように、現地スタッフや現地キャストと積極的にコミュニケーションを取ろうとしています。無論、タイ語は殆ど分からないし、英語も片言。でもその分、たとえば同じ事柄で笑い合えたりできると凄く嬉しい。「世界は笑顔で繋がる」なんて、小っ恥ずかしい当たり前のことを本気で信じたくなったりしています。
30年前の経験を無駄にしないためにも、タイでの撮影が終わる頃には、苦手意識も緊張癖も吹き飛ばし、言葉が通じないごときの壁は、全身全霊の笑顔で、粉砕して粉々にしてやろうと燃えている僕は、ごめん、やっぱり、バリバリの国際派かも。(文/佐藤二朗)