この小さな目の存在によって、人の顔の魅力も変わることがあります。しかも、白目の中にある黒目だけで、変わるのです。黒目の中にある瞳孔の大きさが変わると、魅力は変わるというのです。相手からは確認できるかどうかのわずかな違いなのに、その変化に引きずられて感情がかきたてられるというのですから不思議です。

 瞳孔が開いた顔に魅力を感じることから、その昔、イタリアではベラドンナという毒草を使って女性の瞳孔を拡散させて男性を誘惑したということもあったそうです。

 このことを科学的に裏付けたものとして、写真に写った女性の顔の瞳孔を塗って大きく見せる実験が、1960年代の「サイエンティフィックアメリカン」誌に載っています。

 この加工を施すだけで、対象の女性は、より女性らしく、かわいく、ソフトな印象があると男性に評価されたのです。誰も瞳孔の大きさには気づかなかったことから、瞳孔の変化は無意識に人の評価を変える力があるようです。

 しかもこの効果は男性だけに効き、男性でも同性愛者では効果がなかったことから、女性に対する情動的なモチベーションが前提としてあることが重要だということもわかったのです。

 瞳孔は感情に連動して大きくなったり小さくなったりすることも、別の実験からわかっています。興味のないものには反応しませんが、男性では男性誌のピンナップガールに、女性は赤ちゃんの写真に、瞳孔が反応しました。感情を揺り動かしモチベーションが高まる、興味のある対象を目の前にすると、瞳孔は開くのです。瞳孔の動きから商品を目の前にしたときの消費者心理は掴めないか、そんな研究もこの当時行われています。

 つまり瞳孔が大きい女性が男性にとって魅力的に見えるのは、「自分に関心があるのかも?」ということを意識下で読み取った下心があってのことともいえそうです。これほどわずかな変化を無意識のうちにしっかり読み取って判断するとは、なかなか興味深いことです。

 結局のところ目は心の窓であり、感情が露出されるので、そんな感情を意識下で積極的に読み取ろうとしている、そんな人間どうしの営みの奥深さを感じさせられます。

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一重か二重かにこだわるのはアジアだけ?