しばらくしてその方が肩や胸のあたりを指して「このあたりはだいじょうぶ?」と聞いてきた。とても軽やかにさらっと、でも当たり前にわかっているという目で。

 私は思わず笑ってしまって、「おねがいします」と身をまかせると、彼女は特に説明するでもなく彼女の作法で私の体から何かをスッと抜いてくれた。気を張っていたのがふいにずるっと抜けた感じがしたので驚くと、彼女はぼそっと「これは怒りね」と言った。その瞬間に涙と笑いがこみ上げてきた。

「今日はこのために来たの」と、自分では意識していなかった怒りを放ちに来てくれた不思議な人。その人を連れてきてくれた私の友だち。そのタイミング。たまたまこれはちょっとスピリチュアルな出来事だけれど、もっと現実的なことでも、こんな風に人には役割があるのだと思う。

 誰に、どんなタイミングで助けられるかわからない。自分にもその役割はあって、思いもよらないところで誰かの人生に触れていくのだろう。

ミュージシャン 坂本美雨(さかもと・みう)
5月生まれ。97年1月、Ryuichi Sakamoto featuring Sister M名義で 「The Other Side Of Love」を歌いデビュー。最新アルバムは、2016年12月にリリースした、聖歌隊CANTUSとタッグを組んだ「Sing with me II」(坂本美雨 with CANTUS名義)、また、シンガーソングライターのおおはた雄一さんとのユニット「おお雨(おおはた雄一+坂本美雨)」として、全国様々なフェスなどに出演する等の音楽活動に加え、TOKYO FMを始め全国ネットのラジオ番組「ディアフレンズ」のパーソナリティを担当中。また、2014年初の著書「ネコの吸い方」を刊行、大きな話題となるなど、マルチに活躍中。2015年第1子出産、仕事と育児と奮闘中