こうして貴乃花親方は追い詰められ、最後は、自分が路頭に迷うのは仕方ないにしても、弟子たちの居場所がなくなることは避けたいという一心で、弟子たちの所属変更を求める願いを出して、自らは引退する道を選んだ。

 こうした貴乃花親方の動きに対して、協会の芝田山広報部長(元横綱大乃国)は、会見を開いて、「告発状が事実無根だと認めるよう有形無形の圧力を受けた」という貴乃花親方の主張に対し「そのような事実は一切ない」「一門に所属して一緒にやろうと何度も説得した。告発状が事実無根だと認めなければ一門に入れないと圧力をかけた事実はない」と反論した(朝日新聞デジタル)。

 この協会側の対応が、本件に関する第三の問題だ。こうした一連の経緯を見れば、明らかなとおり、この事件は、協会と貴乃花親方の間の行き違いなどと言うものではなく、典型的な「パワハラ事件」だ。

 職場における「パワハラ」の定義としては、厚生労働省の「職場のいじめ・嫌がらせ問題に関する円卓会議ワーキング・グループ」のものがよく引用される。これによれば、「同じ職場で働く者に対して、職務上の地位や人間関係などの職場内の優位性を背景に、業務の適正な範囲を超えて、精神的・身体的苦痛を与えるまたは職場環境を悪化させる行為」とされている。

 今回の件を当てはめれば、協会は貴乃花親方に対して優位性がある。また、他の親方も、一門に所属させるかどうかについて影響力を行使できる立場にあるから、明らかに貴乃花親方に対して優位な立場にあると認定できる。

 また、これまで一門に所属しなくても特に問題など起こしていないにもかかわらず、一門に属するように命じるのは協会の正式決定であったとしても、業務の適正な範囲を超えていると考えられるし、告発状が事実無根だと認めろというのは明らかに業務の範囲を超えている。

 そして、信念に反して一門に入ることはもちろん、事実無根説を認めるのは貴乃花親方にとっては、人格を否定されるに等しいことだから、精神的な苦痛を与えるものであることも明白だ。こうしてみると、本件は典型的なパワハラ事案だということになる。

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