9月25日、突然の引退会見を開いた貴乃花親方。一般人はもちろん、報道関係者にとっても、それは驚きだったようだ。
当日は火曜日。いつものように朝日放送テレビ(ABC)の情報番組「キャスト」に出演するために大阪にいた私も、番組前にテレビ局スタッフからその話を聞いて驚いた。番組中に17時からモニターに映し出された貴乃花親方の会見を冒頭から15分程度リアルタイムで視聴した。その後1時間半近く続いた会見の模様は後でネットで確認したが、この問題が、「日本相撲協会」による貴乃花親方への「パワハラ」事案であることを理解するのには、会見の冒頭15分で十分だった。そして、会見全体を見た後には、これは、協会による周到な貴乃花親方追放の謀略なのではという強い疑念も湧いてきた。
本件には三つの大きな問題がある。
中でも最大の問題は、全ての親方は「一門」に属さなければならないと協会が決めたことだ。「一門」とは、一言で言えば相撲の世界でのいわば「派閥」のようなもので、古い伝統はあるものの、公益法人である相撲協会が、全ての親方が、「一門」に属することを強制することを正当化する理屈を見つけるのはかなり困難であろう。
協会側は、一門には国の補助金の一部が支給されているので、使途の透明化を図り協会全体のガバナンスを向上するために全親方が五つの一門に所属して取り組むという趣旨だと言い訳しているが、この「一門制度」で、自由な意見が言えなくなり、透明な協会運営ができなくなったり、八百長の温床になるという指摘がなされていて、そちらの方がはるかに説得的だ。補助金の使途の透明化なら、部屋ごとに監査法人による監査を義務付けたらどうだろうか。貴ノ岩傷害事件について、第三者検証委員会も設けず、反論の機会を与えないまま中間報告を公表したような協会が、こういう時だけ、とってつけたように「ガバナンス」を口実にすることにも強い違和感を覚える。そもそも、透明化とかガバナンスというなら、まず、一門ルールを決定したのに隠し続けてきたことをどう説明するのか、その一事をもってしても協会の言い分の説得力は全く失われてしまうのではないだろうか。