二つ目の問題は、貴乃花親方による内閣府の公益認定等委員会への告発状について、8月に「事実無根な理由に基づいてなされたもの」と結論付けられた文書を協会が正式に貴乃花親方に対して手交し、8月末までにこの見解に対する考えを回答しろと要請したということだ。本件は、覚えておられる方も多いと思うが、横綱(当時)日馬富士による貴乃花部屋の力士貴ノ岩に対する傷害事件に関し、貴乃花親方が、内閣府公益認定等委員会に告発状を提出したものだ。傷害事件の真相は不明な点が多いが、その後、貴乃花部屋の力士貴公俊による暴行事件があったことから、貴乃花親方は3月28日付で告発状を取り下げていた。もちろん、二つの事件は全く無関係だが、貴乃花親方が、自分の部屋から不祥事を出したので、他人のことをとやかくは言えないという理由で自主的に取り下げたものだ。事実無根だったということを認めて取り下げたものではない。
しかし、協会は、外部弁護士の見解を踏まえたとしつつ、貴乃花親方の告発が「事実無根」だったと結論付けたのだ。もちろん、貴乃花親方はこれを認めることなど到底できない。これに対する反論書を提出したところ、9月27日に開かれる年寄総会への呼び出し状とともに、「貴殿自身は一切回答するつもりがないように思われ、協会と直接に対話しようとしない貴殿の姿勢は非常に遺憾です」という内容の回答が協会側からなされた。その後、貴乃花親方によれば、「認めないと親方を廃業せざるを得ないという有形無形の要請を受け続け」たと証言した。
つまり、協会側は、事実無根説に固執し、貴乃花親方の主張に耳を貸すつもりなど全くなかったに違いない。27日の年寄総会に貴乃花親方が出席すれば、つるし上げ集会のような状況になるのは誰でも予想できた。貴乃花親方の心境を察すれば、これを欠席したのは、やむを得なかったと考えられる。
第一の問題と第二の問題を同時に突き付けられた場合、貴乃花親方の立場がどうなるのかは、誰にも容易に想像できる。協会の「一門所属義務」を満たすためには、どこかの一門に「入れてください」と頭を下げる必要がある。その際、各一門は、協会の正式見解である「告発状事実無根説」を認めろというだろう。中には、貴乃花親方を救いたいという部屋もあるかもしれないが、事実無根を認めないまま貴乃花親方を受け入れようとすれば、多数派の反貴乃花の親方たちからの強力な締め付けに合うことは確実だ。現にAERAdot.報道でもそうした証言が掲載されている。