もちろん、貴乃花親方の発言がすべて作り話だとすれば、パワハラではない可能性もないとは言えない。

 パワハラ被害者がそれを会見で訴えていて、本人の言うことが事実ならパワハラだと考えられる場合に、協会が真っ先に取るべき行動は何か。
当然のことだが、その主張が真実かどうかを客観的に検証するとともに、訴えた本人を保護することだ。ところが、協会が行ったのは、何の検証もしないまま、会見を開いて貴乃花親方の訴えを完全否定したのである。この一事だけでも、協会の対応には根本的な問題があったと言わなければならない。

 ところが、当初の報道を見る限り、「本件はパワハラだ」という論じ方をしているところは、少なくとも、大手紙や大手テレビ局にはなかった。これほど典型的な事案であるにもかかわらずだ。日本レスリング協会の案件などでは、あれだけ派手にパワハラ問題を報じていたのに比べると対照的ではないか。

 大手マスコミの第一報は、貴乃花親方の主張は一応伝えるものの、協会の主張もそのまま無批判に伝えている。協会が何の調査もしないで貴乃花親方の主張を完全否定したことに対して、批判する質問をした形跡さえない。

「行き違いがあった」とか、「貴乃花親方の行為には批判も多いが、これだけの実績を残した大横綱がこんな形で角界を去るのは惜しい」「もう少し話し合いはできなかったのか」などというトーンで報じるものがほとんどだった。コメンテーターの中には、相撲協会を真正面から批判する人たちもいるが、社として局として、正面から協会を批判するところはない。NHKなどの放送でも、人気があるのであまり酷い貴乃花批判はしないものの、しっかりと協会をフォローする解説を流していた。

 そこで、大きな疑問となるのが、協会が一門所属義務を決定したのが7月なのに、それが公表されず、9月場所半ば過ぎまで貴乃花親方に言い渡されていなかったのはなぜかということだ。公表しないこと自体、うしろめたかったことを如実に表している。これはどう考えてもおかしなことだし、批判されてしかるべきことだ。

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注目すべき貴乃花親方の発言