トリックだとかのどんでん返しじゃなくって、小説のジャンルを変えちゃうことでどんでん返しをしよう。3章までの記述が、4章目に入った段階で二重の意味がもたせてあったとわかるようにしたんです。だから、普通に書いてある文章をあとから読んでみると、全然違う意味で書いてるものだとわかる。そういうどんでん返しのある作品になっています。

 ミステリーというのは、ご承知のとおりトリックが肝心要なもんですから、たいていの方はトリックを思いついてからしか書きません。で、トリックを思いついてからそれに見合ったような話を逆算して書いていくんですね。これが確かに一番書きやすいんです。

 ところが、このやり方だと、トリックを思いつかないと何も書けないんですよ。つまり、量産できないわけです。

 で僕はデビューしたときに今の演繹的なやり方でやることを決めたんです。僕は自分が才能がないとわかっていたので、量産型にするしかないと思ったんです。で、このやり方で、今はだいたい連載は月に10本。単行本もだいたい2カ月に一冊出すようになりました。今のところは成功したのかなーと思います。これからどうなるかわかりませんけど。もし作家になりたいという人がいらっしゃったら、こういうやり方があるんだという風にお考えいただければ。

■お手洗いは1日1回 作家になってから変化したこと

新井見枝香(以下新井):書き始めた時点で出来上がってる。

中山:そうです。頭の中で1枚目から500枚目までぜんぶ書いてるんですよ。で、それをダウンロードして書くだけだから、見直しも必要ないですし、推敲も必要ないんです。『中山七転八倒』にも書きましたけど、僕は今まで推敲と直しって1回もやったことないんですよ。

新井:作家の方は、みんな、それが、すごく嫌だって言いますよね。時間を取られるって。

中山:紙やパソコンに書かずに、まずは頭の中で書けばいいんですよ。漫画で言うと、トーン貼りとベタ塗りまでは終わっている状態に頭の中でしちゃうの。細かい修正作業は必要だけど、だいたいこのページには、このセリフが入るくらいの内容は頭の中で、できてる。

新井:普通の人は、書きだすと、筆が止まるものじゃないですか。

中山:そうですね。

新井:そういうのがないっていうことですよね。

中山:ない。ただ、集中力がないから日記書いたりとか、自分の趣味の小説書いたりとか。

新井:(笑)趣味の小説もあるんですね。

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中山七里は「かなり人としておかしい」?