日本に数多くあるラーメン店の中でも、屈指の名店と呼ばれる店がある。そんな名店と、名店店主が愛する一杯を紹介するこの連載。和食やイタリアンで経験を積み、季節に合わせた旬の食材で作るラーメンが人気の「饗 くろ喜(もてなし・くろき)」の店主が愛するラーメンは、高級ホテルの元総料理長が料理人生の全てをかけて作った一杯だった。
■“1000円の壁”を超えたラーメンを作る理由
店主・黒木直人さん(47)は和食やイタリアンの世界で21年の経験を積み、ラーメンの世界に飛び込んだ。2011年6月に浅草橋にオープンした「饗 くろ喜」が提供する季節の食材を丼に落とし込んだ「旬」のラーメンは、まさに黒木さんにしか作れない一杯。たくさんのラーメンファンを魅了している。グルメサイト「食べログ」では3.96点をマーク。全国のラーメン店51768件のなかで8位となっている(19年6月15日現在)。
これほど人気のラーメンをミシュランガイドが放っておくわけがない。「ミシュランガイド東京」では2017、2018と2年連続でビブグルマンを獲得している。しかし、実は黒木さん自身は掲載を断り続けてきた。
「『くろ喜』のラーメンはまだまだミシュランガイドに載るレベルに達していません。載せないでくれとお願いしましたが、2年間載ってしまったんです」(黒木さん)
実際、「くろ喜」が掲載された誌面には写真がなく、「No Image」になっている。世間の評価に左右されず、自分の目標だけを見ている黒木さんの姿勢が見て取れるエピソードだ。
その姿勢はラーメンの“値段”にも表れている。現在、塩そばは1000円、醤油そばは1200円。決してお手頃とは言えない。前回、「和食とイタリアンを極めた浅草橋の行列店店主が最後に“ラーメン”を選んだシンプルな理由」(2019年6月9日配信)で紹介した際にも、この価格に驚きの声が上がった。