夜に自宅でデスクワークをする日もある。もっとも空腹を感じるのは、この時間帯だという。

「たまに『ああ、おなかがすいた』と思うときはあります。お茶やゼロカロリーのコーラを飲むと収まるので、夜中に何か食べちゃうようなズルをしたことはありません」

「イシハラクリニック」院長の石原結實さん(72)は「空腹こそ究極の健康法。近年は『ネイチャー』や『サイエンス』など世界トップクラスの学術誌でも、空腹や断食の最新研究結果が掲載されています」と言う。

 石原さん自身、朝昼は生姜と黒砂糖入り紅茶やニンジンジュースで過ごし、夜だけ好きなものを食べる1日1食生活を35年以上続けている。

■ダイエット以外の効果

 ファスティングといえば、ダイエットが頭に浮かぶ。しかし、ファスティングの健康効果はそれだけにとどまらない。

「着目すべきは病気のリスクを下げ、寿命が延びる点。1999年に米マサチューセッツ工科大学のレオナルド・ガランテ博士らがサーチュイン遺伝子(長寿遺伝子)を発見し、00年に『空腹において長寿遺伝子が活性化する』と発表しています」

 米ジョンズ・ホプキンス大学のマーク・マトソン教授は、人間や動物を対象にした過去の研究結果を検証。毎日16~18時間絶食する、あるいは1週間のうち2日は500キロカロリー程度の食事にする方法で、血圧低下や体重減少の健康効果がみられ、寿命が延びるという報告を米医学誌ニューイングランド・ジャーナル・オブ・メディシンで発表している。

「空腹状態が続くと、細胞の中の不要なたんぱく質やウイルスなどを集めて分解、消化する『オートファジー』が働く。16年には、大隅良典先生がオートファジーのメカニズムを分子レベルで解明し、ノーベル賞を受賞。この研究が進めば、がんやアルツハイマー病などの病気予防に役立つのではないかと期待されています」(石原さん)

 食べ過ぎが続くと、内臓は消化のために休まず働くことになる。やがて内臓は疲弊し、本来の働きを十分に発揮できず、消化能力や老廃物の排出能力が低下。腸内環境が悪化して免疫力が下がり、不調を招く。

「活動量が減り、食事内容も豊かになった今、1日3食は食べ過ぎです。まずは朝食を生姜紅茶やニンジンジュースなどに変えてみてください。きっと体が気持ちいいと感じるはず。そうしたら1日2食や1日1食にトライするといい」(同)

(ライター・羽根田真智、井上有紀子)

AERA 2021年4月26日号より抜粋