AIM製剤の開発に取り組む東京大学大学院医学系研究科の宮崎徹教授。世界初の腎臓病の特効薬として早期実用化の期待がかかる(撮影/山本友来)
AIM製剤の開発に取り組む東京大学大学院医学系研究科の宮崎徹教授。世界初の腎臓病の特効薬として早期実用化の期待がかかる(撮影/山本友来)
たんぱく質AIMの働き
たんぱく質AIMの働き

 高齢の「宿命」のように受け止められてきた腎臓病。初期療法食による対症療法の充実や、夢の治療薬の開発も進み、様相は一変しつつある。AERA増刊「NyAERA (ニャエラ) ネコの病気と老い」から腎臓病の治療法を紹介する。

【表で見る】AIMを投与し、尿が流れるようになるまでの流れ

*  *  *

 症状悪化を抑制するのが限界だった腎臓病との向き合い方が、「治療」へと根本的に変わる可能性も見えている。

 世界初の腎臓病の特効薬として早期実用化の期待がかかるAIM製剤だ。

 東京大学大学院医学系研究科の宮崎徹教授(56)は、血液中の「AIM」という約350個のアミノ酸からなるたんぱく質が、人間や猫の腎機能改善に大きく寄与していることを立証。2016年に研究論文を発表した。

 先天的に活性化しないAIMしか保持していない猫に対し、人為的に大量生産したAIMたんぱく質を投与すれば、腎不全の治療効果が得られる――。この画期的な発見は獣医療界だけでなく、将来的な人への応用も視野に大きな注目を集めている。

 AIM製剤は、今夏にも第1号の試験原薬が製造される見通しで、20~21年春の実用化を目指している。まさに「あと一歩」の段階にあるのだ。

 宮崎教授は言う。

「大量生産できる態勢を整え、できるだけ多くの飼い主に届けたい。日本で薬事申請をパスした後は欧米でも治験を始め、世界中の猫を助けたいと考えています」

 AIM製剤は、腎不全の前段階である泌尿器疾患全般の予防薬としても効果が期待されている。宮崎教授のもとには、猫の腎臓病に悩む飼い主から早期実用化を期待する数百件のメッセージが届いているという。

「腎臓病を患っている猫を見ているのがつらい、一日も早く治療薬を提供してもらいたいという切実な声ばかりです。海外からも問い合わせがあり、期待値の高さを実感しています」(宮崎教授)

■半年でみるみる元気に

 AIM投与の治療効果は、臨床研究に協力した飼い主からも届いている。

 腎臓病の診断を受けた飼い猫「ジルダ」に2年前、AIMたんぱく質を投与した、飼い主で東京都狛江市に住む伊藤恒子さんはこう打ち明ける。

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渡辺豪

渡辺豪

ニュース週刊誌『AERA』記者。毎日新聞、沖縄タイムス記者を経てフリー。著書に『「アメとムチ」の構図~普天間移設の内幕~』(第14回平和・協同ジャーナリスト基金奨励賞)、『波よ鎮まれ~尖閣への視座~』(第13回石橋湛山記念早稲田ジャーナリズム大賞)など。毎日新聞で「沖縄論壇時評」を連載中(2017年~)。沖縄論考サイトOKIRON/オキロンのコア・エディター。沖縄以外のことも幅広く取材・執筆します。

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