KMGにはいま、国内はもとよりシリコンバレーやポートランドなどから起業家や投資家がやってくる。定期的に開くイベントでは、起業家やエンジニア、大学教員、大手メーカーの社員が熱い議論を繰り広げる。昨夏には日本に研修で来ていたスタンフォード大の教授と学生が、KMGのことを聞きつけ「作品を作りたい」とやってきた。

 17年には地元の銀行や大手メーカーの出資で20億円超の投資ファンドも設立。試作と資金の両面で、国内外のスタートアップを年間十数社支援する。

 京都という「磁場」が引きつけるのはIT、モノづくりベンチャーにとどまらない。昨年、創業100周年を迎えたパナソニックは松下幸之助の「日本のモノづくりの原点は伝統工芸にあり」という言葉に立ち戻り、京都から家電のイノベーションに挑む。

「メイドインジャパンの家電はこのままでは生き残れない」

 デザイン戦略室長の臼井重雄さんは、16年までの10年間、上海に赴任。価格で攻める中国、韓国の家電メーカー、斬新な発想でヒットを生むダイソンなど欧米企業の躍進に危機感を持っていた。

「次の100年を考えた時、鍵を握るのはデザイン。色や形の前に、そもそも炊飯器とは何なのかなど、製品が生活にもたらす『意味』をゼロからデザインする必要があるんじゃないか」

 そう考えた臼井さんは会社に対し、工場ごとに分散していたデザイン部門を京都に統合することを提案。昨春オープンしたPanasonic Design Kyotoは東京、ロンドン、上海、クアラルンプールを統括するグローバル拠点になった。

 現在取り組むプロジェクトの一つは、伝統工芸の後継者のクリエイティブユニット「GOON」とのコラボレーションから生まれた「新しい家電」の商品化だ。今春には第1号として「響筒」を販売する。日本最古の手作り茶筒の老舗、開化堂と開発した、蓋の開閉によってオンオフができるスピーカーだ。経年変化を楽しみながら長く使うという、従来の家電にはない発想を取り入れた。

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