「このカルテをどこまで書いてくれるかで、選ぶ本がまったく変わってきます」(岩田さん)

 少し恥ずかしさを覚えつつ「カルテ」を岩田さんに差し出すと、文面を見て所々に線を引きながら、20分ほどで11冊の本をピックアップしてくれた。選ばれたのは『銀婚式』(篠田節子)、『男と女の台所』(大平一枝)、『ブレない子育て』(栗原泉)……などさまざま。自分ではまず買わない詩集も入っていた。

「幼少期に家庭で感じていた寂しさや、現在の仕事と夫婦関係、子育てにおける葛藤などが目を引きました。僕も幼少期は孤独を感じていたし、同じような悩みを持つ人は多いんですよ」

 選書の理由を岩田さんはこう話した。実際に選書された本を読んでみると、「一万円選書」が多くの人に支持される理由がよくわかる。選び抜かれた本に触れると、自分の内奥に突き刺さる「インプット」になる。読書が血肉となり、過去の人生のあらゆることが有機的につながっていく。明日の「アイデア」ではなくても、今後の人生における大きな「アウトプット」の素地になるのではないか。そうした希望が湧いてくるのだ。

「すぐに結果が求められる時代だからこそ、10年先のことを考えて本を読んでほしい。そうしたら、きっと人生変わりますから」(岩田さん)

(編集部・作田裕史)

AERA 2018年12月17日号より抜粋