柳沢幸雄(やなぎさわ・ゆきお)/1947年生まれ。東京大学名誉教授。2011年から開成中学校・高校の校長を務める。11月に新刊『男の子を伸ばす母親が10歳までにしていること』(朝日新聞出版)が発売予定(撮影/慎芝賢)
柳沢幸雄(やなぎさわ・ゆきお)/1947年生まれ。東京大学名誉教授。2011年から開成中学校・高校の校長を務める。11月に新刊『男の子を伸ばす母親が10歳までにしていること』(朝日新聞出版)が発売予定(撮影/慎芝賢)

 開成高校といえば、名門大学への合格者を多数輩出する、言わずと知れた名門校。しかしそんな開成では、決して勉強一辺倒にならないような環境づくりがされているという。背景にある思いを、開成中学校・高校校長の柳沢幸雄さんに話を聞いた。

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子育てのポイントは、子どもが楽しそうにしていることをやらせること。親は大けがをしないように見守っていればいい」

 そう話すのは、開成中学校・高校(東京)で校長を務める柳沢幸雄さんだ。同高校は37年連続で東京大学合格者数ナンバー1の名門として知られる。

「『これをやってほしい』『こうなってほしい』は親の夢であって、間違った教育観です。子育てや教育は、型にはめるものではなく子どもから引き出すもの。興味を持ったことを積極的にやらせ、伸ばしてあげてください」

 子どもはまっさらな白地図で旅をしているようなものだという。新しいことをするのには常に不安が付きまとう。それでも、一度やってみて心地よかったものは記憶され、何度でもやりたがる。それをやらせてあげることで、個性が育っていく。

 とはいえ近年、周囲と子どもを同じ色に染めようと考える親が増えていると感じるという。

「例えば難関中学の受験をめざす子は、小学校高学年になると、みんな受験勉強中心の生活サイクルになって、通う塾も評判のいいところに集中する。入学するのはどうしても同じようなタイプの子になります」

 暗黙のうちにみんなが同じレールをたどって、少しでも上に行こうと競争する構図になる。子育てが画一化するゆえんだ。

「子育てや教育が“みんな同じ”になっているのは、同調圧力以上に、親の孤立が原因です」

 核家族化が進み、特に都市部では地域のつながりも弱まり、親たちは前の世代の子育ての知恵を役立てることもできない。

「親たちは失敗できないというプレッシャーも加わって、緊張した状態で孤立しています。そうすると、どうしてもインターネットなどの情報に頼ったり、周囲が“いい”ということに合わせようとしてしまうのです」

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川口穣

川口穣

ノンフィクションライター、AERA記者。著書『防災アプリ特務機関NERV 最強の災害情報インフラをつくったホワイトハッカーの10年』(平凡社)で第21回新潮ドキュメント賞候補。宮城県石巻市の災害公営住宅向け無料情報紙「石巻復興きずな新聞」副編集長も務める。

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