しなの鉄道/1997年、北陸新幹線の長野開業で軽井沢以北を担う並行在来線会社となった(撮影/写真部・大野洋介)
しなの鉄道/1997年、北陸新幹線の長野開業で軽井沢以北を担う並行在来線会社となった(撮影/写真部・大野洋介)

 苦境に立たされているローカル鉄道。しかし中には、廃線を乗り越えてV字回復を見せた路線もある。鉄道のV字回復は、掛け声だけじゃできない。秘策は、具体的な形を作り、採算がとれるビジネスモデルをいかに構築するかにある。

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 鉄道がなくなって栄えた地域はない。街は沈み、衰退する。暮らしと文化を支える鉄道を守ることは、地域を守ることでもあるのだ。そうした中、V字回復しているローカル鉄道は、鉄道を「地方創生の要」と位置づけ乗客を増やしているという共通点もある。その一つが「しなの鉄道」。長野県の軽井沢から妙高高原までの102.4キロを走る、第三セクター。2015年度の年間乗客数は約1470万人と、10年度と比べ47%、14年度比では42%増やしている。

「鉄道を通じ外から人を呼び込むことで、地域を発展させたい」

 と話すのは、しなの鉄道の玉木淳社長(47)。一昨年6月、東京海上日動火災保険から出向し社長に就任した異色の経歴の持ち主。鉄道とは「あまり縁がなかった」と笑うが、直前まで営業開発部次長として中小企業向け保険の開発に取り組み、地方創生の大切さを誰より理解していたことから白羽の矢が立った。

 就任時、しなの鉄道は11期連続黒字で乗客数も増えていた。しかし「内在する課題」が見えてきた。まずは、沿線の少子高齢化による定期券収入の減少。年間約31億円ある運賃収入が、今のペースでいけば約20年後には4億円減り27億円になる。次に、社員の年齢構成がある。同社の社員の平均年齢は約34歳と若いが、次第に人件費負担が重くなる。さらに、JR時代からの車両が老朽化し更新は避けられない──。以上3点を加味すると、何もしなければ、収支バランスは大きく崩れ約15年後には毎年8億円近い赤字が出ることになっていたという。

「地域のために長期的な視野でローカル鉄道を残していく秘策を考えるのが僕の命題になってきました」(玉木社長)

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野村昌二

野村昌二

ニュース週刊誌『AERA』記者。格差、貧困、マイノリティの問題を中心に、ときどきサブカルなども書いています。著書に『ぼくたちクルド人』。大切にしたのは、人が幸せに生きる権利。

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