●虚偽を事実にすり替え

 虚偽を事実にすり替えるという手法は、歴代大統領には見られない極めて恐ろしい悪魔の戦略だ。「絶対にあってはならないが、熱狂的な支持者は事実確認もせず、そのまま信じてしまう。虚偽の事実をつくりあげ、真実とミックスすることで、真実の信頼性を下げていく」と海野教授。米報道機関を「フェイクだ」と執拗に攻撃し続けるのも、虚偽はメディアであって、真実は常にトランプ政権とともにあるとの「もう一つの事実」を徹底的に支持者にすり込む戦略に基づいている。

 その背景にはトランプ氏の「自己愛的な性格」が影響していると海野教授は考えている。自己愛が強い人は、自分の意見を通し、自身の業績を過大評価する傾向がある。自尊心を傷つけられると対決姿勢に転じるのも特徴だという。

 就任式の聴衆規模でオバマ前大統領に負けたことや、大統領選の得票総数がクリントン氏より少なかったという真実がトランプ氏の自尊心を傷つけ、異常なまでの攻撃を繰り返しながら、「もう一つの事実」で真実を封印しようとする。不正投票分を除けば得票総数でも上回ったとトランプ陣営がいまだに言い続けているのも、その一環だ。

 この戦略を担当するのが側近中の側近の3人。オルタナ・ファクトという概念を初めて公にしたコンウェイ顧問と、トランプ氏のスピーチライターのスティーブン・ミラー大統領補佐官、自らを「国粋主義者」と主張してオルタナ右翼との関係も深いスティーブン・バノン首席戦略官兼上級顧問だ。

「3人の人格は、トランプ大統領と非常に似ている。アイデンティティーが同一化しているから発想も同じ。とがめることなく『もう一つの事実』をつくりだす」(海野教授)

●ツイッターで大拡散

 加えてトランプ氏の娘婿のジャレッド・クシュナー大統領上級顧問や、スパイサー報道官が連携して虚偽の真実を広める。浸透させ、広く信じさせるメカニズムができあがっているから恐ろしい。

 例えばメキシコ国境の壁建設。不法移民に子どもを殺害された母親を演説の舞台にあげ、ハグをする。殺人を犯す不法移民は白人労働者から仕事まで奪うと主張し、犯罪犠牲者の母や白人労働者vs.不法移民という対決構図を強調する。解決するヒーローがトランプ氏だ。だから不法移民が米国に来ないよう国境に壁を造る。誇張や極論を重ねた「もう一つの事実」に、敵をつくって支持者を拡大するトランプ流劇場型政治で、その効果を倍増させているのだ。

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