さらに一方的かつ頻繁な情報発信で「もう一つの事実」を「真実」のごとく拡散させる有効な武器がソーシャルメディア。大統領になっても私的ツイッターを積極活用することにこだわり続ける。

 この三つを組み合わせたトリプル戦略がトランプ政治の核心で、それをトランプ氏自身とインナーサークルの3人が強烈に推し進める。国民による反トランプ運動や政権批判を続けるメディアが、このメカニズムをなかなか崩せず、トランプ陣営はさらにトリプル戦略の効果を過信していく。

 そこまでして成し遂げようとしているのは、「歴史的に最も雇用創出を成し遂げた大統領」というレガシー(遺産)だ。雇用創出を最優先課題とし、変革能力をアピールするために大統領令を乱発する。同じく変革の象徴として09年に大統領となったオバマ前大統領が素早く成果を出せなかった結果、翌年の中間選挙で敗北した。その教訓を踏まえ、今年のクリスマス商戦までに変革の恩恵を国民が実感できるような成果をつくりだすことに躍起になっている。

●取引で実利引き出す

 トランプ戦略を外交に当てはめるとどうなるか。貿易赤字のみを取り上げて日本への敵視発言を続けるトランプ氏に対し、日本政府は「日米同盟の重要性を丁寧に説明すれば分かってもらえる」と期待して今月の日米首脳会談に臨む。ただ、トランプ氏は同盟関係を十分に理解した上で、あえて貿易赤字を強調し、「円安誘導」と批判することで、「もう一つの事実」をつくりだしている可能性が高い。

 海野教授は、これまでのトランプ氏の言動から、「あくまでも雇用創出という内政の延長線上に日本は置かれており、『雇用創出のための同盟国』という位置づけになっている」と分析。「取引材料の組み合わせを常に狙って交渉するのがトランプ外交」だとして、同盟国、非同盟国とも同じように実利を引き出すための外交を行う可能性を指摘する。

 台湾と一つの中国、ロシアへの制裁解除と核削減、米国内で雇用をつくる企業と優遇措置といった組み合わせだ。中国が為替操作をしないなら、海洋進出は大目に見るといった取引だってあり得るかもしれない。そのトランプ氏が、日本に対して、どのような組み合わせで取引を求めてくるのかが注目だ。

 人種や民族、宗教、文化の多様性を重んじる民主主義的な価値外交に終止符を打ち、孤立路線で米国第一主義を突き進むトランプ政権。虚偽の世界に現実社会が引き込まれるのか。それとも現実社会がそれを打ち破るのか。世界は今、極めて重要な岐路に立たされている。(編集部・山本大輔)

AERA 2017年2月13日号