小島慶子(こじま・けいこ)/タレント、エッセイスト。1972年生まれ。家族のいるオーストラリアと日本との往復の日々。オーストラリア行きを決断した顛末を語った新刊『これからの家族の話をしよう~わたしの場合』(海竜社)が発売中
小島慶子(こじま・けいこ)/タレント、エッセイスト。1972年生まれ。家族のいるオーストラリアと日本との往復の日々。オーストラリア行きを決断した顛末を語った新刊『これからの家族の話をしよう~わたしの場合』(海竜社)が発売中

 タレントでエッセイストの小島慶子さんが「AERA」で連載する「幸複のススメ!」をお届けします。多くの原稿を抱え、夫と息子たちが住むオーストラリアと、仕事のある日本とを往復する小島さん。日々の暮らしの中から生まれる思いを綴ります。

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 今から15年ほど前、初めての産休を控えた私に、目上の人から「おめでとう! お祝いにランチをしよう」とありがたいお誘いをいただきました。個室のイタリアン。食事の途中で、その人は「ちょっといいかな?」と目の前でタバコを取り出しました。え? 私、妊婦ですが?!と思いつつも、お世話になっているので断れず、たっぷり3本分、至近距離で受動喫煙したのでした。元が大のタバコ嫌いなうえに胎児への影響も不安でしたから、とてもつらかったです。

 ご当人は「俺はタバコを吸う時に一言断る、マナーの良い喫煙者だぞ」という認識だったと思います。当時はまだ、何も言わずに吸い出す人もいましたから。

 その後は全面禁煙の場所も増え、以前よりは受動喫煙の憂き目にあうことは減りました。それでも今年も数度あったなあ。

 6畳ほどの打ち合わせ室で「ちょっと、タバコいいですか? 苦手だったら言ってくださいね。喫煙ルームに行きますから。でもちょっとここから遠いんだよなあ、あはは」ってね、書類見ながら思いっきり話の途中なのに「では出て行ってください」と言えないの、わかってるでしょうよ。

 あと、仕事の悩みを打ち明けながら「ああ、つらくてやってらんない。吸っていい? ごめん、煙そっち行かないようにするから」って手であおぎながらひっきりなしに吸うとか。分煙レストランではなかったこともあり、やめて、とは言いづらかったなあ。

 愛煙家にはぜひ、喫煙はおならと同じだと思ってほしい。「ちょっといい?」って、人前で放屁します? まして密室とか、打ち合わせ中とか、食事中とか。でね、おならで失うものは当人の好感度だけど、タバコは他人の健康を害するんです。つまり相手をガス室に閉じ込めるのと同じってこと。

 ニコチン中毒のあなたの道連れで毒ガスを吸わされるのはゴメンです。だけど面と向かっては断りづらいもの。マナーの良い喫煙者を目指すなら、「いい?」と聞くのではなく、吸うときはぜひ喫煙室へ。

 WHOによると日本の受動喫煙防止への対応は「世界最低レベル」(2014年末時点)なのだとか。お・も・て・な・し自慢のオリンピックまであと3年半。ロンドン並みの屋内全面禁煙は実現するのかなあ。

AERA 2016年12月19日号

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小島慶子

小島慶子

小島慶子(こじま・けいこ)/エッセイスト。1972年生まれ。東京大学大学院情報学環客員研究員。近著に『幸せな結婚』(新潮社)。共著『足をどかしてくれませんか。』が発売中

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