「特措法をつくるにしても、クリアしなければならない課題は多い。『スピード感を持って』と言いながら、あえて結論を出さない議論を続け、陛下のご意思が確認できなくなり、摂政を置くほかなくなる『時間切れ』を待つつもりではないか。『生前退位については、引き続き慎重に検討していく』と言うだけで、結局何もしないのではないか」(山下氏)

●特措法が抱える問題

 議論の大きな柱となっている特措法自体に無理があるとの見方もある。

 政府が特措法での生前退位実現を目指すのは、皇室典範改正となると、議論が長期化し、法改正まで時間がかかると懸念したためだ。ある宮内庁関係者も、政府高官から「特措法をつくり、陛下一代限りの譲位を実現することが精いっぱいだろう」と言われたと明かす。

 だが、特措法による退位は違憲ではないかとの指摘も出ている。日本国憲法第2条には、「皇位は、世襲のものであって、国会の議決した皇室典範の定めるところにより、これを継承する」と書かれ、皇室典範第4条には、「天皇が崩じたときは、皇嗣が、直ちに即位する」とあるからだ。

 11月30日には、憲法学者ら5人からのヒアリングが予定されているが、関西大学教授の高作正博氏は、「特措法による退位は、私個人の見解でも、容認はギリギリ。法学者からは『皇室典範の改正が本筋』との声があがるのでは」という。

 8月8日の天皇陛下の「お言葉」を受け、朝日新聞が9月に実施した世論調査では、91%の人が生前退位に「賛成」と答えた。そのうち、「今の天皇だけが退位できるようにするのがよい」としたのは17%で、「今後のすべての天皇も退位できるようにするのがよい」が76%を占めた。

 生前退位をめぐっては、陛下が6年以上前から、宮内庁参与を交えて多くの議論をしてきたことも明らかになっている。
 すでに70年前、今日のこうした事態を予測し、危惧していた人がいる。10月27日に100歳で逝去された昭和天皇の末弟、三笠宮崇仁さまだ。

 三笠宮さまは、旧憲法、旧皇室典範からの移行について「新憲法の精神に沿わぬところだけを変更した」側面が強いのではと懸念し、「今は一時的に糊塗(こと)出来ても将来必ず問題が起こる危険性を含んだ案」と指摘していた。

●三笠宮さまの危機感

 1946年11月3日の憲法公布と同じ日付が入っている「新憲法と皇室典範改正法案要綱(案)」(大阪府公文書館蔵)という手書きの文書がある。内容は、三笠宮さまが述べられたものとされる。この文書には、明快な論旨で、今日の皇室典範について疑問がつづられている。

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