「新憲法で基本的人権の高唱されているに拘(かかわ)らず(中略)国事国政については自己の意志を強行することも出来ないばかりでなく、許否権すらもない天皇に更に『死』以外に譲位の道を開かないことは新憲法第十八条の『何人も、いかなる奴隷的拘束も受けない』という精神に反しはしないか?」
「天皇と内閣との間に意見が対立した時天皇はどうすればよいか? (中略)天皇に残された最後の手段は譲位か自殺である。天皇が聡明(そうめい)であり、良心的であり、責任観念が強ければ強いほどこの際の天皇の立場は到底第三者では想像のつかぬ程苦しいものとなろう」
三笠宮さまは、天皇の役割についてこうも述べている。
「全国民の為否世界全人類の為にほんとうに役立つならどんな狭い籠の中でも我慢をせねばならぬのだ」
前出の小田部氏は、
「現在の天皇も皇室も、こうした使命感によって支えられています。いまの政権はそれをあまりに軽視しているのではないでしょうか」と語る。
有識者会議は70年前の三笠宮さまの問題提起より後退していないか──。陛下のご学友たちは、天皇の生前退位を巡る議論を心を痛めて見守っている。
●ご学友の焦りと不安
学習院初等科から大学まで同級生だった眞田尚裕氏(83)は、陛下の健康を心配する。
「陛下は、年齢的には世間で言う引退する頃に現役になり、今もお忙しく働かれています。人と会われる際は、事前に入念に準備されます。元気でいられる時間は限られている。健康を第一に考えてほしい」
初等科から高等科まで同級生だった明石元紹氏(82)は、政府の姿勢に、義憤を隠さない。
「なぜ、『公務の軽減』と『特措法』を前提に議論が進むのでしょう。お言葉の意味を本当に理解しているのか。陛下の真意とはかけ離れたところへ進んでいるのではないか。陛下は公務の軽減を望むとは、ひとことも言っておられません。年齢がある以上限界があると言っておられる。人間が天皇をやる以上、当たり前のことです」
学習院中等科で同級の織田正雄氏(82)は、しみじみとこう語った。
「陛下は、若い頃から1億の日本国民すべてに公平であらなければならないと繰り返し言っておられた。8月のお言葉は、誰の迷惑にもならないよう、熟慮に熟慮を重ねてまとめられた、実に陛下らしいものでした。そのなかで、陛下が強調されていた『摂政では憲法の定める天皇のあり方を全うできない』ということを、どれだけくんでいただけるのか。正しい判断をしてくださることを願っています」
親しき友の言葉は重い。(編集部・熊澤志保)
※AERA 2016年12月5日号