「カリスタ」で使う鍼は、髪の毛より細く、痛みはゼロに近い。米粒大のお灸と組み合わせて、冷えやむくみを撃退する。秋には体調を崩しやすいせいか、当日予約が増える(撮影/写真部・岡田晃奈)
「カリスタ」で使う鍼は、髪の毛より細く、痛みはゼロに近い。米粒大のお灸と組み合わせて、冷えやむくみを撃退する。秋には体調を崩しやすいせいか、当日予約が増える(撮影/写真部・岡田晃奈)
「せんねん灸お灸ルーム」のお灸教室の一コマ。煙が立ち上がるため、自宅では「換気扇の下が定位置」というお灸ファンも多いとか(撮影/村上宗一郎)
「せんねん灸お灸ルーム」のお灸教室の一コマ。煙が立ち上がるため、自宅では「換気扇の下が定位置」というお灸ファンも多いとか(撮影/村上宗一郎)

 病院に行くほどでもないけれど、何だか調子が悪い…。そんな悩みを鍼灸(しんきゅう)で解消しようとする女性が増えている。彼女たちが出没するのは、東京の銀座や青山、恵比寿などにある、小じゃれた鍼灸サロン。その一つ、「カリスタ」(恵比寿)代表で鍼灸師のCHIHIROさんはこう語る。

「秋口は気温差で自律神経のバランスが乱れやすく、身体のだるさや首・肩・背中のコリ、冷えなどを訴える方が多く見られます。鍼灸で、ずいぶんラクになりますよ」

 秋になって、夏の疲れがどっと出る、いわゆる「秋バテ」という症状にも効果があるらしいのだ。最近、冷えが気になる筆者も試してみた。

 1本、また1本。顔面から足先まで無数の鍼(はり)が刺さり、小さなお灸に火がともる。ツーッと血流が増して体が温まり、温泉に入っているように心地いい。その日はエアコンの風を受けても、寒さを感じなかった。

 健康だけでなく、鍼で美を追求する人もいる。ちょうど取材日に来店していたAさん(35)は週1回のペースで通う常連だ。目当ては、女性誌でよく取り上げられている、“美容鍼”。

「顔のリフトアップの施術を受けます。普通のエステより効果がハッキリしていて、機械を使わないから安心」

 体の内側・外側両方のケアに、鍼灸は効果を発揮する。自宅で秋バテのケアをするなら、お灸が便利だ。銀座にある「せんねん灸お灸ルーム」のお灸教室は、2カ月先まで予約でいっぱい。ある土曜のクラスをのぞくと2組の夫婦と、女性1人が集まっていた。

 鍼灸師の小泉洋一さんの説明に従って、楽しげにお灸を据えている。参加者の女性が「熱くてヤケドしないか気になって」と問うと、小泉さんは穏やかに答えた。

「肌に直接もぐさをのせて火を付ける『直接灸』とは違い、最近主流の『台座灸』は、もぐさと肌を台座で隔てて熱さを抑えています。熱いほど効くというわけではなく、じんわり温かく、気持ちいいと感じる程度が体に合っているのです」

 お灸は大きく進化していた。初心者タイプは、ピンク、グリーン、パープルとカラフルで、フルーツや花の香り付き。女性の心をうまくつかんでいる。

 なぜ鍼灸が秋バテや冷え、美容に効くのか? 鍼灸の治療や研究に詳しい北里大学東洋医学総合研究所漢方鍼灸治療センター副センター長・伊藤剛医師に尋ねた。

「ツボは、痛みや熱などの刺激を感知するセンサー『感覚受容器』の一種。鍼やお灸の刺激を脳や脊髄に伝え、痛みや筋肉の緊張、自律神経、ホルモンなどを調整します。美容によいのは、皮膚の血行を改善し、表情筋の緊張をほぐすためです」

AERA 2013年10月21日号