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Photo:David Koskas

──なぜCGで火災を作らなかったのですか。

 それは私のスタイルではありません。やはり(関わる人の)感情が違ってくると思います。消防隊員役の俳優たちは、800度ぐらいに燃え盛る火の前で演じました。ものすごく危険ですし、炎が燃え盛る音やパチパチと砕かれるような火の音はリアルです。やはり感情というものは、実際に作ってこそ湧き上がるもので、CGに頼ると、とても人工的になってしまいます。人が感動する、心を動かされるというのは、本能的にそれが本物だとわかっているからなんですよね。

──大火災でありながら、幸い死者は一人も出なかった。

 もし傷ついたり死んだりした人がいたら、この映画を作らなかったと思います。本当に危険ですし大災害でしたから。でも、火災は非常にポジティブな終わり方をしています。私はそんなエンディングの映画が好きですし、希望を感じてもらえる映画を作るのが好きなんです。今、家から再建されている大聖堂を日々眺めていますが、火災前よりも強固に再建されることになりました。実は火災前も再建していましたが、資金が全然足りなかったんです。でも、火災があったことで世界中の人々の心が動かされ、完璧に再建するための資金が十分集まりました。ある意味、火災というドラマがあったことが大聖堂にとって福音だったと思っています。

──アノー監督は今回、全編IMAX撮影にこだわるなど、多くの試みに挑戦した。

 私は新しいチャンネルを探ること、これまでになかったジャンルを作ることが好きです。今までも実話に基づいた話が好きで作ってきましたが、今回はさらに踏み込み、アマチュアの方や旅行者たちが撮った映像を5%ぐらいですが、それを自分が作り上げた映像と合わせるということをやってみました。私のもとには3万本以上の映像が送られてきたんですよ。

 記憶がまだ鮮やかに残っている人たちにたくさんインタビューできたことも、これまでとは大きく異なりました。火災に関わった消防隊員はもちろん、行政関係者、窓から火災を見ていたような近所の住人、警備員、警察官、建設作業員……。建設現場でたばこを吸っていたという話もその時に聞きました。

 また、この映画では消防隊をしっかり描いています。フランスに限らず、世界中の消防隊員は本当に素晴らしい。彼らの仕事への使命感に非常に魅了されました。あまりにも敬意を抱いた私は、パリ消防団の公式メンバーになってしまいました(笑)。

(構成/ライター・坂口さゆり)

週刊朝日  2023年4月14日号