こうした村の空気について、岡部岳志村長(54)は次のように話す。

「人間関係が希薄な都会と違い、小さな村では、みんなが協力しないと地域活動がまわっていきません。丹波山村は特に人口減少が顕著だからこそ、『どんな人とでも助け合う』という意識が共有されています」

 移住と並行して力を入れるのが関係人口(短期滞在者)の増加だ。今年6月には村内の施設を改築した「TABAワークセンター」というテレワーク施設ができた。「ないものを狙うのではなく、村にある資源をいかに引き出すかを意識している」と村長は話す。

 鉄道もない、コンビニもない──。一見、ないない尽くしに思える丹波山村の環境。だが、村に移住した若者たちは、都会に「ない」人とのつながりや光景の魅力を、同じ環境の中に見いだしていた。どこに住み、働くか。暮らしと仕事をめぐる価値観の変革が、小さな村から静かに起こりつつある。(本誌・松岡瑛理)

週刊朝日  2022年10月14・21日合併号