■都会の生活ともギャップ感じず

 昨年の秋、横浜市から地域おこし協力隊として移住し、いまは村の社会福祉協議会で働く樋口雅紀さん(35)はこう話す。

「もともと田舎で暮らすことに興味がありました。ヘルパーとしての仕事を探していたので『田舎 福祉』で一発検索して、上位に出てきたのが丹波山村だったんです」

 いざ住み始めて、都会の生活とのギャップを感じることはなかったのか。樋口さんは言う。

「ないですね。生活に必要なものは村内の商店か、アマゾンで調達しています。役所や郵便局も商店に近く、いろんな機能が村の中心にぎゅっと詰まっているので、辺鄙(へんぴ)な田舎よりも暮らしやすいです」

 同じような声はほかの移住者からも聞かれた。地域おこし協力隊を経て、林業の会社を立ち上げた佐藤駿一さん(30)は言う。

「コンビニがないから不便と言いますが、あっても結局、余計なものを買ってしまっていることが多い。今はネットで何でも頼める時代なので、特にこれといって困ることはありません」

 今春オーストラリアから丹波山村に移住し、佐藤さんの会社で働く宇山勇さん(31)も、ネットで就職先を見つけた。

「オーストラリアにいたときに『山梨 林業』で検索したら現在の会社がヒットしました。丹波山村はもともと目星をつけていたエリアだったので、応募は迷いませんでした」

 村に住み始めてからは、都会と異なる人との距離感に良い意味でのギャップを感じたと話す。

「都会では『知らない人とは目を合わせるな』という空気がありましたが、村では会うとみんな必ず声をかけてくれる。人の温かさを感じます」

 地域おこし協力隊員として、2年前に村に来た仲野宏樹さん(41)も言う。

「仕事が終わって自宅に帰ると、毎週のように魚が届いています。食べ物は玄関先に置かれていることもあれば、こたつの上にのっていることもある。『ごんぎつね』でもいるんじゃないかと錯覚します」

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