「協力隊の受け入れが始まってから8年間で、村の人口は110人ほど減りましたが、20代から40代が村全体の人口に占める割合は2.2%ほど増えました。外から村に人が入り、住み続けてくださっていることの表れだと思っています」

 地域おこし協力隊員の取り組みは、新たな移住者の呼び込みにもつながった。今春、明治大学を卒業し、村役場に就職した井上登太さん(25)もその一人。移住を考えるようになったのは、同村の協力隊1期生である小村幸司さん(57)との出会いがきっかけだった。

 東京都大田区で生まれ育った井上さん。高校時代、満員電車に乗って学校に通う中で「サラリーマンはこんな窮屈な生活を毎日続けているのか」と漠然と感じていた。それでも大学3年では「波に乗って」就職活動を行ったが、都内で働くイメージが持てずに中断した。休学し、自転車で全国一周の旅に出る中で、「東京で就職はないな」と感じ、地方で働くことを考えるようになった。

 旅から戻ると、実家に近いJR蒲田駅の駅ビルにある「小さな村g7東京オフィス&ショップ」(現在は閉店)でアルバイトを始めた。丹波山村をはじめ、音威子府村(北海道)や檜枝岐村(福島県)など、全国でも人口が少ない村の特産品を扱うユニークなコンセプトを掲げたこの店の立ち上げ人が、小村さんだった。

「どの自治体の採用試験を受けようか悩んでいた時期に、小村さんから丹波山村を推薦され、『じゃあ(役場を)受けてみようかな』と。最初はそんな軽い気持ちでした」

 村を訪れたのは、受験を決めた後のこと。自宅から自転車で約8時間かけて村にたどり着いた。

「宿で寝ようとしたら、丹波川の流れる音が聞こえてきて、東京ではありえないと思いました。若者たちが当たり前のように村内を歩いていたのも心強かったです。もしお年寄りばかりだったら、気後れしていたかもしれません」

 村を訪れてから移住に踏み切るのではなく、移住を考えて初めて村を訪れた──。鈴木さんや井上さん以外にもそう語る移住者は多く、中にはネット検索で村を見つけたというケースもあった。

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