今回も岸和田リトルリーグ時代の気弱な泣き虫を知る幼なじみ、PL学園で2人の怪物KK(桑田真澄と清原)と寝食を共にした研志寮のチームメイトの証言はディテールが精密でさすがといえる。

 相違といえば、前作は編年体で積み重ねられて読みやすく、作者の成長物語(ビルドゥングスロマン)でもあるが、今作は単純ではない。清原の告白の記録者に徹しようと思うけれども、証言者の体調や機嫌によって左右され、引きずられてしまう。

 謙虚と傲慢、率直と欺瞞、純粋と狡猾が同居した極端な二面性をもつ清原。そんな人間的な弱さを多くの人は覆い隠そうとするが、彼はおそらく無自覚にかつ無防備にさらしていく。引き寄せられた視点人物の2人(宮地啓介と野々垣武志)によって明らかにされる強烈で不可思議な清原の磁力。著者も徐々に体験していくことになる。

 清原が「あの日だけは死んでも忘れない」と言う1985年のドラフト会議の顛末を取材した井元俊秀(PL学園野球部創立監督)から、「あなた、清原を食い物にしとるんじゃないか?」と投げかけられ、苦悶する様も描かれる。

 清原の内面の闇を探り想像する上で、自らの内面に問わざるを得ない分、ノンフィクションでありながら小説の色も濃厚になっていく。『嫌われた監督』が「まるでミステリー小説を読むよう」と評されたが、本書は私小説を読むような、一種の重苦しさがある。だがそれは、鵺(ぬえ)のような相手(客体)に対峙した作者の懸命な肉薄のように私には映った。

 蛇足だが、読後、PLのチームメイトが複数証言する「怪物という言葉があてはまるのはむしろ桑田のほう」の言葉が重く響く。いつの日か、著者の「桑田真澄を巡る旅」を読みたい。

週刊朝日  2022年10月14・21日合併号