■音だけの情報は想像が膨らむ

 ラジオでは通常、電波をキャッチするチューニングという作業がある。昔はダイヤルを回し、アンテナの方向なども調整した。最近のラジオにはボタンを押すだけで一発選局が可能な機能も搭載されているが、清水さんは「一定の世代以上にはチューニングすることがおもしろいのではないか」と話す。

 エフエム東京の川島修執行役員技術局長も若いころ、「宝探しをするようにラジオの電波を探した」という。当時はレコードを頻繁に買うことができず、音楽を聴く手段はもっぱらラジオしかなかったとも。

 ラジオの特性として、写真家の川村さんは「リスナーの想像力が高められることがある」と指摘する。「音だけの情報から想像が膨らむことはとても気持ちいい」と話す。北郷さんも「ラジオは音と声しかない。聴く人が頭のなかに思い描き、想像する楽しみがある」という。

 学生たちを身近に見ていて、北郷さんは「想像力が弱くなっていると感じている」と話す。一方、一定以上の年代には、想像することが自然に身についているのではと、北郷さんはみている。

「ラジオは音が柔らかく、聴いていて疲れない」と川村さんは話す。仕事や読書、運転中もラジオをつけっぱなしにすることが多いという。パーソナリティーのおしゃべりが勉強になることがあるとも。

 デジタル音があふれる昨今で、「ラジオ放送は音声配信の伝送メディアで唯一、アナログ」というのはエフエム東京の川島さん。デジタルは「間引いて圧縮」する手法で、効率化しながら音も良くしている。やや乱暴だが、視覚にたとえると、人が見る景色を1秒間に何コマもの静止画像で記録し、それを連続して投影すると、目の錯覚で自然な動画に見える。一方、アナログは、そうした間引きや圧縮がなく、効率が悪いという。川島さんは「いまのFM放送はぜいたくで、たっぷりと送っている」と話す。

 ラジオの音が柔らかく疲れないのも、アナログ音源の特性かもしれない。川島さんは「アナログ特有の音の良さがある」とみている。

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