川村さんの仕事場の愛機(川村容一さん提供)
川村さんの仕事場の愛機(川村容一さん提供)

 ラジオで音楽を聴く魅力は何なのか。最近はインターネットを通じ、ユーチューブなどで好きな音楽を聴く人が少なくない。定額制(サブスクリプション)で聴き放題の音楽配信サービスもある。便利な時代だからこそ、ラジオの魅力として“偶然性”を挙げる人は少なくない。

 普段は大学生を相手にする大正大学社会共生学部教授の北郷裕美さん。若い人たちは好きな音楽を、最初からピンポイントで選んで聴いているという。一方、60代半ばの北郷さんが若い時代は、好きな曲がたまたまラジオでかかると「ラッキー」と感じた。「ラジオは偶然性そのもの」と話す。

 北郷さんが子どものとき、親世代はラジオをつけっぱなしにし、お茶の間にはいつも音楽が流れていた。当時はテレビもあったが、北郷さんは「ラジオの音楽番組が圧倒的な情報量だった」と振り返る。

 ラジオディレクターの清水さんも「ラジオがいつも日常生活に存在していた」と振り返る。そして、未知の曲やアーティストとの出会いなど、「偶然性がラジオの魅力」と話す。ラジオから流れてくる音楽が、そのときの気分や心情にぴったり合ったり、過去の思い出をよみがえらせてくれたりしたことがあるとも。

 清水さんの学生時代、音楽がいまほど簡単に手に入るものではなかった。「音楽を探すのは、学生のころはお金がなく、ラジオだった」という。

 最近は定額制の配信などで音楽を入手しやすくなったが、清水さんは「どれを聴いていいのかよくわからず、(ラジオ番組の)限定されたなかから聴かされるほうがいいときがある」と話す。

 北郷さんも、いまの若い人たちは音楽などの選択肢が圧倒的に多いと指摘する。一方、北郷さんの世代は、音楽を含めて「限定されたなかで、みんなが楽しんでいた」と振り返る。

「われわれは音楽を消費する感覚がないが、若い人たちは次から次へと消費してしまう。イントロカットなどのショートカットに慣れている。ギターソロや間奏はいらない。必要なものを瞬時に選択する」(北郷さん)

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