※写真はイメージです
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 建物と居住者の“二つの老い”の問題に加えて表面化しているのが、管理人のなり手不足だ。定年退職した後の人気職だったが、近年は人手不足が深刻化しているという。何が起きているのか。

【図表】管理人が経験した居住者の認知症の症状はこちら

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 神奈川県在住のAさん(67)。定年退職後に4年間務めたマンション管理人の仕事を、2年前に辞めた。

 定年退職後、1年ほど悠々自適の暮らしを送っていたAさん。趣味の時間を満喫したりと、楽しく過ごしていたが、徐々に日常が単調なものに思えるようになった。そんなとき、ふと目についたのが、近所のマンションで働いている同世代の管理人の姿。植栽の世話をしたり、住人と話をしたり、キビキビと働く姿に「自分もやってみようか」と思うようになった。

 定年まで保険会社で勤めていたAさんは、窓口での営業経験も長く、対人コミュニケーションには自信があった。時給1100円、1日5時間、週4日勤務の条件で、隣駅のマンションの管理人を務めることになった。

 受付や共用部の清掃、ゴミ出し、マンション内の巡回や設備の点検などが主な業務だ。研修では「住人の暮らしを支える大切なお仕事です」と説明を受け、やる気がみなぎった。想像以上に体を動かす仕事だったが、次第に慣れた。

 ところが“ある住人”をきっかけに、やる気を削がれることが増えていった。その住人は、30代の子育て中の女性。ある日、エントランスにゴミが落ちているのを見つけたその女性から「ちゃんとお仕事してくださいよ」と強めの口調で注意された。Aさんは「どうもすみません」と笑顔で返したが、女性は「ヘラヘラ笑ってる場合じゃない」と大げさにため息をついて、その場を去った。

 その女性や女性の夫から、ちょっとしたことで注意されることが続くようになった。「管理にお金を払ってるんですから、ちゃんとやってください」と強い口調で非難されたことも。

 自分の子どもと同世代の住人からの過度なクレームは、こたえた。常に住人らから“見張られている”という感覚が強くなり、「せっかくの老後の時間がもったいない」と辞める決意をした。

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松岡かすみ

松岡かすみ

松岡かすみ(まつおか・かすみ) 1986年、高知県生まれ。同志社大学文学部卒業。PR会社、宣伝会議を経て、2015年より「週刊朝日」編集部記者。2021年からフリーランス記者として、雑誌や書籍、ウェブメディアなどの分野で活動。

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