今年4月に改正マンション管理適正化法が全面施行されるなど、マンション管理に対する世間的な意識の高まりが見られる中で、管理人に求められる資質も高まっている。デジタル化によって管理人もパソコンやタブレット操作ができることを必須スキルとする会社も多く、以前に比べて多角的なスキルが求められるようになっている。

「上の世代の居住者は“一生懸命やってくれていたら細かいことはあまり言わない”という人が多くても、若い世代は“お金を払ってるんだから、それなりの仕事をしろ”という契約社会的な考えを持つ人が少なくない。こうした中で、管理人の仕事は待遇が責任に伴っていない実情もあります。前職でそれなりのポジションを築いた後となると特に、管理人の仕事は長続きしづらい」(土屋さん)

 実際に、管理人のなり手不足により、管理委託業務からの撤退を管理組合に申し出る管理会社も出てきている。管理人がいなくなると、掃除やゴミ出しといった建物管理はもちろんのこと、高齢者や子どもの話し相手や見守りという側面でも、「いないと困る」というケースが出てくる。

 一部では管理業務のAI化といった動きも見られるが、管理人の仕事は「対人でないと解決できない事柄が多い」(前出の久保さん)こともあり、浸透するに至らない。

「近年のマンション管理に対する意識の向上によって、管理人の人材不足という現実と裏腹に、管理人に対する期待値や求めるスキルが過度に高まっている傾向がある。このままでは管理人の雇用が困難になり、これまでと同様に勤務することも難しくなってくる。それによって、新たな問題が起こりかねない」(土屋さん)

“マンションは管理を買え”とも言われる時代、その管理を行うのも、また人だ。管理への意識の高まりとともに、管理人への期待が多様化する中で、人手不足にあえいでいる現実も直視せねばならない。マンション管理においても、理想を振りかざすだけでない“持続可能性”が求められている。(フリーランス記者・松岡かすみ)

週刊朝日  2022年8月12日号

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松岡かすみ

松岡かすみ

松岡かすみ(まつおか・かすみ) 1986年、高知県生まれ。同志社大学文学部卒業。PR会社、宣伝会議を経て、2015年より「週刊朝日」編集部記者。2021年からフリーランス記者として、雑誌や書籍、ウェブメディアなどの分野で活動。

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