住民を見渡せば、自身を含めて60歳を超える高齢者が8割近くを占め、年金暮らしに入っている世帯も少なくない。全住戸から300万円を徴収することは、まず不可能だろう。借り入れという手段もあるが、高齢者が多いマンションで多額の借金を背負うことはリスクが高い。住民からは、「これ以上積立金を値上げされると、生活していけない」「大規模修繕は、自分がいなくなってからにしてくれ」という声が上がっている。

 こうした中、理事の一人(70代)が脳梗塞を患い、長期入院することになった。入院費もかさむ中、修繕の話題はますます頭の痛い話だろう。このまま自宅に帰ってこられない可能性もあるかもしれない。自分もいつ、そうした状態に陥るかわからない年齢に差しかかっている──。

「日ごろから管理組合を中心に適切に管理や修繕をしていればいいのですが、そうもいかない現実があるのが実態です」

『60歳からのマンション学』などの著書で知られるマンショントレンド評論家の日下部理絵さんは言う。

 管理組合は、分譲マンションを購入した区分所有者で構成される組織で、マンションの共用部分は管理組合が維持管理している。維持管理の実務を組合員全員でこなすのは困難なため、理事会が管理組合を代表して維持管理の運営に当たる。理事会を構成するのは、理事長、副理事長などの理事と理事会の活動をチェックする監事。任期は一般的には1~2年で、輪番制や立候補制、くじ引きなどで決められる。

■長期修繕計画がない築古物件も

 ところが近年、住民の高齢化により、管理組合の運営に支障をきたす問題が浮き彫りになってきているのだ。一つが、冒頭のAさんのマンションのように、高齢化によって経済的な余裕がなくなり、管理費や修繕積立金が不足しても値上げが難しくなったり、滞納が増えるケースが出てきていることだ。さらに、高齢化による理事のなり手不足も問題になり始めている。災害時に援助や介護が必要な人が住民に増える懸念も指摘されている。

「住民の高齢化が進んだマンションでは、管理組合の運営が思うようにできなくなる事態が起こり始めています。ただでさえ築年数が経っているマンションに、資金不足の問題が絡めば、加速度的に老朽化が進むことにもなりかねません」(日下部さん)

次のページ