週刊朝日 2022年7月29日号より
週刊朝日 2022年7月29日号より

 マンションを維持管理する上で、必ず必要になることの一つが、大規模修繕工事だ。経年劣化を改善し、安全な状態に保つのに欠かせない工事で、一般的には12~15年に一度の周期で計画的に行われる。ここで実施される工事内容は、外壁の補修、屋上などの防水、鉄部の塗装、給排水管など、主に共用部分の工事だ。マンションという巨大な建物を修繕するからには、工事費も数千万超と巨額の費用が必要になる。そのため、多くのマンションでは向こう20~30年の長期的な修繕計画や資金計画を立てる。

 いつ、どの部分を修繕や改修するのか、そのためにはいくら積み立てておく必要があるのか。こうした計画をもとに、区分所有者である組合員が毎月負担する「修繕積立金」を決め、来たる大規模修繕に備える。

「ところが、築古のマンションでは、そもそも長期修繕計画という概念そのものがなかったり、計画書があっても見直されていないことが少なくないのです」とは、前出の日下部さんだ。

“十数年に一度”の大イベントでもある大規模修繕は、「難しい」「面倒」といったイメージが持たれやすく、理事を始め住民らが頭を悩ませることが多いのも事実で、結論を先延ばしにしようとする動きも見られる。

 国土交通省の「マンション総合調査」(2018年度)によると、計画の見直しを行っていないマンションの割合は5.7%、計画が10年以上見直しされていないマンションは22.6%に上る。また実際の修繕積立金が計画に比べて不足しているマンションは34.8%にも上ることが明らかになっている。背景には、工事費や人件費など、工事にかかる費用の高騰も起因している。マンション管理コンサルタントの土屋輝之さん(さくら事務所)は言う。

■工事回数増えるごとに費用増加

「2013年ごろから、大規模修繕工事の費用がかなり高騰しています。そのため、修繕費を積み立てていても足りず、一時金を徴収せざるを得ない事態があちこちで起こっている。こうした中で、住民が高齢化し、修繕費や工事に必要な一時金が払えないマンションが出てきているのです」

 実際に、入居者のうち高齢者が7割近くを占める都心の某マンションでは、給排水管の工事を適切に行ってこなかったために、水道から錆で濁った赤い水が出るようになった。そのため調理や飲み水としては、水道水が使えない事態が発生しているという。

「いくら便利な場所で立地条件が良くても、建物や設備のメンテナンスをきちんとしていないと、いざというときに売ることも貸すことも難しい資産価値の低い物件になってしまう」(土屋さん)

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