でも映画になる前の16年にテレビ番組「Mr.サンデー」で放送することになり、父は周囲に知られることに腹をくくったんだと思います。さらに番組の取材で会った地域包括支援センターの方が上手に理由をつけて家に様子を見に来てくれて、父は意外なほどあっさり軟化しました(笑)。本人も限界を感じていたけれど、娘には言いだせなかったんでしょうね。その後、ご近所の方々も「ひとごとじゃない」と心配してくださるようになったんです。カミングアウトし、第三者に介入してもらうことは大事なのだと実感しました。

──介護サービスの頻度はどのくらい?

 16年の6月から要介護1の認定を受け、ヘルパーさんが週1回訪問し、デイサービスに週1回行く態勢でした。回数を増やそうか、という矢先に倒れてしまったんです。

 一度「家をバリアフリーにしようか」という話が出たとき、ケアマネジャーさんの助言でやめたことがありました。母は父と暮らした家をすごく愛していたので、リフォームで景色が変わってしまうと混乱して「家に帰りたい」と外出する可能性がある、と言われました。実際にそういうケースがあるそうです。経験豊富な専門家はさすがだと思いました。

 ただ介護サービスにもっと早くから頼っておけば、もっと回数を増やしていれば脳梗塞にもならなかったかもという後悔もあります。母が倒れた18年の夏は猛暑でした。母はヘルパーさんが来る日とデイサービスに行く日は朝から起きていたのですが、それ以外は夕方まで寝ていたようです。その間、水分補給もしていなかったので脱水状態になって、発症した可能性もあると思っています。

──現在、お父さんは101歳でお元気に一人暮らしをされています。秘訣はなんでしょう?

 布団派なので毎日の布団の上げ下ろしはけっこうな運動になっていると思います。週3回クリニックでエアロバイクをこぎ、日課は新聞の読み比べです。記事をスクラップするだけじゃなく内容を要約してノートに書くことで頭の運動もしています。魚屋さんや八百屋さんなど近所の方々も父を見守ってくれています。

 先日、父が言ったんです。「直子、年寄りにとっての社会参加とは、社会に甘えることなんじゃのう」って。つい数年前まで「わしが全部やる」と言い張っていた人が、そこまでオープンになった。100歳を超えても人は進化できるんだ、と驚きました。クリニックでも101歳の父がエアロバイクをこいでいるのを見て「ああいうふうになりたい」と元気を出す方がいるようで、父はアイドル的な存在になっているらしいんです(笑)。社会にお世話になっているだけじゃなく、人を励ましているとしたらすごいことだなと。心が落ち込むことが多い昨今、ぜひ父の姿から元気をもらってほしいとも思います。

(構成/フリーランス記者・中村千晶)

(週刊朝日2022年4月1日号より)
(週刊朝日2022年4月1日号より)

週刊朝日  2022年4月1日号