13年から遺贈寄付の専任部署を設けたNPO法人「国境なき医師団」(新宿区)でも、19年(286件)、20年(306件)と問い合わせが増えている。今年は10月までで314件で、すでに前年を上回った。

 ファンドレイジング部シニア・オフィサーの荻野一信さんは言う。

「60~70代の、比較的若い世代のシニアが多い印象です。定年をきっかけに、元気なうちに前向きに考えたいと思う人が多いのでは」

 同医師団の日本法人に寄せられる寄付の15%前後が、遺贈寄付によるもの。ファンドレイジング部の別の担当者は「1件あたりの額はさまざまですが、もともと当法人に寄付をしてくれていた方が半分、残りは初めて寄付をしてくださる方です。人生の後半を迎え、私たちの活動を思い浮かべていただく方も多い」と話す。

「海外で困難を抱える子どもたちのために使ってほしい」

 弁護士を通じ、公益財団法人「日本財団」(港区)にこんな連絡が届いたのは11年2月のことだった。亡くなった大阪の女性が、「遺産を財団へ寄付する」と記した遺言書を残していたと、遺族から相談された。

 これに応えるため、財団は、どの国のどんな事業に使ったらよいかを検討。長く軍事政権が続き、経済制裁を受けていたミャンマーで障害児のための特別支援学校を建て、運営を支援する取り組みを選んだ。学校は13年に開校した。

 ひとりの女性の志が、異国で結実したのだ。

 財団が遺贈寄付への対応を強めたのは、この女性からの寄付がきっかけだ。遺贈寄付サポートセンターのチームリーダー、木下園子さんは言う。

「東日本大震災が起きた11年以降、国内で寄付の意識が高まり、遺贈寄付の相談も増えました。その受け皿を作ろうと、14年に電話相談窓口を開設し、16年には遺贈寄付に特化したサポートセンターを設置したのです」

 電話相談窓口を開設するまで年に100件程度だった遺贈寄付に関する相談は、20年度には約1900件が寄せられるようになった。

「会社をやめて退職金を受け取った方は子育ても一段落し、有意義な使い道を考える機会が増えるためでしょう。足元では新型コロナウイルスの感染拡大を受け、この先、いつ何があるかわからないと改めて感じ、遺言書を書いて遺贈寄付を考える人も少なくないようです」(木下さん)

(本誌・池田正史)

週刊朝日  2021年12月3日号

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池田正史

池田正史

主に身のまわりのお金の問題について取材しています。普段暮らしていてつい見過ごしがちな問題を見つけられるように勉強中です。その地方特有の経済や産業にも関心があります。1975年、茨城県生まれ。慶応大学卒。信託銀行退職後、環境や途上国支援の業界紙、週刊エコノミスト編集部、月刊ニュースがわかる編集室、週刊朝日編集部などを経て現職。

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