その男性は60代で若年性認知症を発症した。華々しいキャリアの持ち主だったが、妻とともに病を受け入れ、人と積極的につながっていたという。家族会の集いに参加することも多かった。

「当事者にしかわからないつらさというのがあると思います。今は当事者同士が集う場がいろいろあります。そういうところで同じ境遇の人の声を聞いたり、自分の悩みを相談したりすることで、気持ちも整理されると思います。頑張ろうという気持ちにもなるはずです。認知症であることをさらけだす勇気をもって、地域や多くの人とつながることで気づきが得られ、前に一歩進めます。泥沼の状態から救い出してくれるのはやっぱり人なんです」

 前出の新井さんは4月に「アルツクリニックPETラボ」内に「健脳カフェ」を開設した。体操ができる場所や、映画鑑賞できたり、むくみを改善する施術を受けられたりする個室もある。専門医が常駐しているため医療相談もできるという。こうした場所に足を運ぶことで、居場所づくりにもなり、いろいろな情報も入る。

「たとえ認知症になっても命に別条があるわけではなく、進行もゆっくりなので、まずは通常の生活が送れます。人とつながり、生きがいや好きなことを日々の中で見つけ、会話を通して刺激を受け、楽しく暮らしていくことでその後の悪化防止につながります。悲観的にならないでほしいと伝えたいです」(新井さん)

(本誌・大崎百紀)

週刊朝日  2021年11月12日号より抜粋