(週刊朝日2021年11月12日号より)
(週刊朝日2021年11月12日号より)

「大事なのは、治る認知症を見逃さない、ということです。うつ病からくる『仮性認知症』なら治ります」(認知症予防のクリニック「アルツクリニック東京」院長の新井平伊さん)

 うつ病による認知機能の低下は認知症と間違えられやすい。薬の副作用や意識障害などで起きるせん妄も同様だ。せん妄は一過性のもので、認知障害は治る。頭部外傷などで発症する慢性硬膜下血腫も認知症の症状が出ることがあるが、これも治療すれば治る。

「もの忘れ外来」のある「おくむらメモリークリニック」理事長で脳神経外科医の奥村歩さんは「薬剤性認知症」を問題視する。薬によって認知機能が低下することで、「ありとあらゆる薬が原因になり得る」という。

「睡眠薬や風邪薬とかはよく知られていますが、盲点なのが生活習慣病の薬です。降圧剤やスタチンのような脂質異常症の治療薬を75歳を過ぎても飲んでいる人は要注意。中高年の高血圧は諸悪の根源ですが、高齢者が血圧を下げるために降圧剤を飲むのは勧められません。高齢になり血圧が上がるのは生体反応。それを人工的に下げれば脳への血流も減り、認知機能も下がってしまいます」

 もし薬を飲み始めて、ちょっとおかしいと感じたら自分で判断せずにかかりつけ医に相談したい。

 奥村さんも認知症は絶望の病ではないという。

「認知症になったら何もわからなくなるのではない。人間らしさや、その人の心は変わりません。認知症の人が一番不幸に感じるのは周囲の人との絆が失われるということ。社会がその人らしさを取り戻せるようにする。これこそが大事なのです」

 認知症の人と家族の会東京都支部代表の大野教子さんは、今は亡き若年性認知症だった男性の一言を思い出す。

「10年ほど前のことです。新宿の街頭で認知症に関するリーフレットを配っていたときのことです。多くの人は一瞥(いちべつ)するだけ。中には、嫌なものを見るかのような態度で足早に通り過ぎていく人もいました。それを見た当事者の彼が言ったんです。『みんな、ひとごとだと思っているんだね。自分はならないと思っているんだね』と」

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