森本さんは歩く受信機かと思うくらいニュースの動きを常に把握していらっしゃる方。24時に休まれて4時起きだそうですが、寝ている間にもふと目が覚めるとCNNにチャンネルを合わせたりされるほどです。誰よりも勉強されるので、森本さんについていこうと、チームには緊張感があります。それは31年間、変わりません。一人ひとりが真剣に参加している、それが『スタンバイ!』の魅力です」

 31年の間には、プライベートではいい日もあれば、悪い日もあった。

「69歳で入籍しました。30代と50代で離婚を経験していまして、再々婚。立教大学放送研究会の4歳先輩です。50代後半からのおつきあいでした。ところが間もなく主人が認知症に。4年ほど家で介護しましたが、大きな体を抱えたりする動作で股関節の症状が悪化。周囲から共倒れになるわよと心配され、自宅から歩いて数分の介護施設に預けることにしました。3年前のことです。

 今、主人は私のことがわかりません。でも入籍を後悔はしていません。明治生まれの両親はほとんど介護することなく旅立ちましたし、子どもも育てていません。一度はこうして誰かのお世話を、という運命かなと思います。

 人生は晴れの日ばかりではありませんよね。でも、仕事を辞めようと思ったことは一度もありません。曇りや雨の日も、マイクの前に座るとスイッチが入ります。アナウンスの仕事が好きなんですね。こうして55年、やってきました」

 4月、番組は32年目に入った。

「私がアナウンサーとして終わるのはこの番組と決めています。

 今は一日一日が愛おしい。マイクの前に座っている時、ふと我に返って、ああ、幸せだなあと思う瞬間があります。今日、番組が終わったとしても『ああ、やり切った』と言えるように。そんな思いでニュースを読んでいます」

(ノンフィクションライター・三宅玲子)

週刊朝日  2021年5月28日号