「人から指図されるのは苦手。自由に生きたいし、人にも自由に生きてほしい。武蔵(東京)はまさにそうした校風で、自分には合っていました」
【一覧表】有名進学校 過去40年の東大合格者数と順位はこちら
NPO法人「全国こども食堂支援センター・むすびえ」理事長で、東大特任教授の湯浅誠さん(51)は、有名進学校として知られる母校・武蔵(東京)をそう振り返る。
高校から入学。特に印象的だったのは多くの授業で教科書を用いず、教員がプリントや問題集を自作していたことだ。
「今思えば、大学のような授業が高校から展開されていました」
当時も現在も武蔵の根底にあるのは「本物志向」の精神。国語では、昔の変体仮名を通じて文学の多様性を学び、地学では箱根に出かけて自らの目で火山の地形観察をする。
2019年に赴任した杉山剛士校長は言う。
「武蔵は自由な校風と言われますけど、根本は『学問の自由』。学びとは何か、根底から考えることを大切にしています」
東大の五神真総長をはじめ、研究の道に進んだ卒業生も数多い。
一方で、近年直面しているのが進学実績の低迷だ。開成、麻布とともに男子御三家と呼ばれ、1980~90年代初頭は例年70~80人前後の東大合格者を出していた。しかし、00年以降は急落。07年以降はほぼ20人台だ。高野橋雅之副校長はこう説明する。
「学問を重視するという発想から予備校業界とは一線を画し、特別な受験指導はしてきませんでした。結果として、世の中から離れていた部分があったことは否めません」
転機は11年。進路指導担当となった高野橋さんは予備校の研究会に参加し、情報蓄積量に驚いた。
「生徒にしてみれば、受験はやはり人生の一大事。進路調査をすると東大志望者が多いのも事実で、それならば我々もサポート態勢を整えなければ、と考えを改めました」
翌年、校内で進路専門のチームを結成。校内での模擬試験実施、社会人OBによるキャリアガイダンスの開催など、風土変革に取り組んでいる。
目指すは学校の独自性を生かしつつ、生徒の進路希望を実現させることだ。杉山校長は言う。
「結果として進学実績が上がれば望ましいですが、無理に生徒を東大にねじ込むつもりはありません。でも、いい循環が生まれる予感はあります」
(本誌・松岡瑛理)
※週刊朝日 2021年3月19日号