「人や物との衝突が怖くて、動くことさえ難しい。選手の顔同士がぶつかることもざらにあります」

 けがが絶えない肉弾戦。その魅力はどこにあるのか。

「一流選手になると、人が移動したときに流れる空気を感じることで、どこに障害物があるかがわかるといいます。南米のチームなどは、見えているんじゃないかというほどに陣形を崩さず、鮮やかに選手間の距離を保って動きます。見えないことがハンディとは思わせないプレーを見てほしいです」

 次いで向かったのは競技用車いすの体験だ。パラリンピックでは、車いす競技として車いすバスケットボールや車いすフェンシング、車いすラグビー、車いすテニスがあるほか、陸上や卓球などで車いすの種目がある。

 競技によっては選手同士がガツンとぶつかり合う。装甲車のような重厚な車いすを想像したが、座ってまず感じたのが「軽さ」だ。

 体を固定するため、ベルトで腰と足元を締める。だが、ブレーキがないので、座っているだけなのにゆらゆらと車いすが動いてしまう。そして進む際にはあまり力がいらない。ハの字形のタイヤの両脇にあるハンドリムを軽い力で回すとスーッと進む。回転も容易だ。選手の強靱(きょうじん)な上半身や鍛え抜かれた二の腕を想像して、力強く回さなければいけないと思い込んでいたが、これは意外な点だった。

 挑戦したのはスラローム。複数のパイロンの間を縫って走行する。右に曲がりたい場合は左側のタイヤを回し、左に曲がりたい場合はその逆。これがうまくいかず、パイロンにぶつかってしまう人や意図せぬ方向に行ってしまう人が多かった。

 車いすが「軽い」のは競技者にとってメリットだ。ただ、ブレーキがないので、急転回や急ブレーキにはパワーが必要。攻守が目まぐるしく変わる競技では、腕がパンパンに張ることは容易に想像がつく。そのうえでボールやラケットを扱うのだから消耗は相当だ。

 1994年リレハンメル冬季大会からパラリンピックを取材、撮影するカメラマンの清水一二さんは、車いす競技についてこう語る。

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