「万引きによるちょっとした“達成感”や“快楽”によって、その穴は縮まりますが、時間が経てばまた広がって寂しくなり、これを繰り返すわけです。健全な人は趣味やコミュニティーでのつながり、家族関係などで穴を埋めていくのですが、孤独な人はつながりがないためにうまく対処できないのです」

 こういった思考回路を見直すために有効なのが、認知行動療法だ。万引きがもたらすのは達成感や快楽ではなく、罪と家族や周囲への迷惑であること。これを専門家との対話や自助グループでの会話から、粘り強く理解してもらうことが回復への糸口となるという。

 元々ギャンブル好きだった50代の男性は、管理職に就いてから心的負担が増えた。最初はちょっとしたストレス発散のつもりだったが、そのうち仕事帰りや休日のウォーキングの途中などでパチンコ店に入るようになり、競馬につぎ込む金額も大きくなっていった。手持ちがなければ金を借り、気づけば雪だるま式に借金が膨れ上がっていた──。

 中高年男性に多いのがギャンブル依存症だ。パチンコ、スロットのほか、競馬などの公営ギャンブル。元来の趣味がエスカレートして、歯止めが利かなくなる。

 久里浜医療センター(神奈川県横須賀市)の松下幸生副院長は、こう話す。

「ギャンブル依存症はお金の問題が大きくなります。ギャンブルのコントロールが利かなくなり、その結果ほとんどの人が借金を抱えてしまいます。当院を受診する人で、借金がないという人はほぼいません」

 特に最近、FXに依存する中高年男性が増えてきたという。FXとは外国為替証拠金取引のこと。業者に担保として証拠金を預け、国内ではその最大25倍の外国通貨の売買ができる。日本は世界一の「FX大国」で、2016年度の取引規模は5千兆円規模だ。

「普通に働き、ちゃんと給料をもらっていて、家庭もある。それなりの地位を得ている人が多い。そういった方が、1千万円単位の借金を抱えているんです。パチンコなどに比べると桁違いです」

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